自動車大手7社の関税影響2兆円超、業績への打撃と対応策
はじめに
米国の自動車関税が、日本の自動車メーカーに深刻な打撃を与えています。2025年4〜12月期の連結決算が出そろい、大手7社合計で関税影響が2.1兆円にのぼることが明らかになりました。営業利益を約3割押し下げた計算です。
関税率は期初の27.5%から、日米交渉を経て2025年9月中旬には15%に引き下げられました。しかし、従来の2.5%と比べれば依然として高い水準であり、各社の業績に重くのしかかっています。本記事では、関税が各社に与えた影響と、対応策の現状を解説します。
関税の経緯と現在の税率
27.5%から15%への引き下げ
2025年4月末、トランプ政権は日本からの自動車輸入に対する関税を従来の2.5%から27.5%に引き上げました。これは米国の貿易赤字削減を掲げるトランプ政権の通商政策の一環です。
その後、日米間で通商交渉が進められ、2025年7月23日に合意に達しました。基本関税2.5%に追加分12.5%を上乗せした計15%で決着しています。9月16日から新税率が適用され、自動車メーカーの負担は軽減されました。
しかし、4月末から9月中旬までの約5カ月間は27.5%という高い関税率が適用されており、この期間の影響が決算に大きく反映されています。
自動車業界全体への波及
関税の影響は完成車メーカーにとどまりません。日本から米国へ部品を輸出する中小の自動車部品メーカーも、関税負担の増加に直面しています。サプライチェーン全体で見ると、影響はさらに広範囲に及んでいます。
各社の業績への影響
トヨタ:関税負担1.4兆円
トヨタ自動車は2026年3月期通期で関税負担が営業利益ベースで約1兆4,000億円にのぼると見込んでいます。営業利益を約3割押し下げる計算です。宮崎副社長は仕入先との関係において、「1社ずつしっかりと向き合い丁寧な話し合いを重ねていく」と述べ、購入部品の価格見直しや原価低減で対応する方針を示しました。
トヨタは国内生産300万台体制を「揺るがず守る」とする一方、米国関税に対して「ジタバタしない」姿勢を打ち出しています。長期的な視点で生産体制の最適化を図る戦略です。
ホンダ:通期4,500億円の関税コスト
ホンダは2025年度通年の関税コストとして4,500億円を見込んでおり、営業利益が前年度から7,134億円減少して5,000億円になると発表しました。対策として、乗用車「シビック」の5ドアハイブリッド車を日本から、SUV「CR-V」をカナダから、それぞれ米国への生産移管を計画しています。
米国内の増産によって関税の影響を最小限に抑える方針ですが、生産移管には設備投資と時間が必要であり、短期的な業績改善は難しい状況です。
スバル・マツダ:利益の大幅減
スバルは米国市場での販売が全体の約7割を占めており、関税の影響を特に強く受けています。2025年4〜12月期の関税負担は2,166億円に上り、営業利益は82%減と大幅に落ち込みました。関税対策を講じない場合の影響額は25億ドル程度と試算しており、各種対策で営業利益1,000億円の確保を目指しています。
マツダは関税影響を2,333億円と見込み、営業利益を8割押し下げる計算です。円高の影響も加わり、営業利益は500億円と前期比73%の縮小となっています。2025年4月の単月では90億〜100億円程度の関税コストが発生し、販売奨励金の引き下げなどで対応しています。
三菱自動車:「極めて逆風が強い」
三菱自動車の加藤隆雄社長は「極めて逆風の強い状況にある」と述べ、厳しい経営環境を率直に認めました。米関税に加え、中国市場での販売低迷も重なり、二重の逆風にさらされています。
各社の対応策
原価低減と調達見直し
各社は原価低減を最優先の対策として取り組んでいます。部品のコストダウン交渉、設計の見直し、生産プロセスの効率化など、あらゆる手段でコスト削減を進めています。ただし、部品メーカーへの過度な値下げ要求はサプライチェーンの安定性を損なう恐れがあり、バランスの取れた対応が求められます。
米国現地生産の強化
関税回避の最も直接的な方法は、米国内での生産を増やすことです。ホンダのシビックやCR-Vの生産移管に加え、トヨタも米国工場での生産ライン増強を検討しています。しかし、新たな設備投資が必要であり、投資回収までの期間も課題となります。
販売価格への転嫁
一部のメーカーは、関税コストの一部を販売価格に転嫁する動きも見られます。ただし、米国市場では価格競争が激しく、大幅な値上げは販売台数の減少につながるリスクがあります。各社は販売奨励金の調整など、微妙なバランスを取りながら対応しています。
注意点・展望
関税率の不透明感
現在の15%という関税率が今後も維持されるかは不透明です。トランプ政権の通商政策は変動が大きく、さらなる引き上げの可能性も否定できません。一方、日米間の交渉が進展すれば、関税率がさらに引き下げられる可能性もあります。
2026年3月期通期の見通し
2026年3月期通期では、7社合計の関税影響は2.5兆円弱に達する見込みです。下半期は15%の税率が適用されるため上半期ほどの負担ではありませんが、依然として大きな影響が続きます。
中国メーカーとの競争激化
関税問題に加え、価格競争力の高い中国メーカーが世界市場で急速にシェアを拡大しています。日本メーカーは関税コストを吸収しながら、中国勢との競争にも対応しなければならず、二重の課題を抱えています。
まとめ
米国関税は日本の自動車大手7社に2.1兆円という巨額の負担をもたらし、営業利益を約3割押し下げました。各社は原価低減や米国現地生産の強化で対応を進めていますが、短期的な業績改善は容易ではありません。
今後の注目点は、15%の関税率の維持・変動と、各社の構造改革の進捗です。日米交渉の動向や、中国メーカーとの競争環境も含め、自動車業界は引き続き厳しい局面が続く見通しです。
参考資料:
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