ゼンショーがゼッテリアに賭ける理由—多角化から選択と集中へ
はじめに
外食大手のゼンショーホールディングス(HD)が、大胆なブランド戦略の転換に乗り出しています。2026年3月をめどに、傘下のハンバーガーチェーン「ロッテリア」の国内全店を「ゼッテリア」に転換し、54年の歴史を持つロッテリアブランドを日本から消滅させることを発表しました。
さらに、カフェ事業からの撤退も決定。全世界で約40あるブランドの統廃合を進め、M&A(合併・買収)による多角化路線を見直す方針です。2025年6月に社長に就任した小川洋平氏は「カテゴリー別で1位を目指すことが難しい場合は整理していく」と述べ、「選択と集中」路線を鮮明にしています。
本記事では、ゼンショーのブランド戦略転換の背景と、「第3の柱」としてゼッテリアに賭ける狙いを解説します。
ロッテリアからゼッテリアへ
54年の歴史に幕
ロッテリアは1972年、東京・日本橋に1号店をオープンして以来、半世紀以上にわたり日本のファストフード文化を支えてきました。しかし、激化する価格競争の中で業績は低迷。2005年には企業再生ファンドのReVampから出資を受け、2007年には「絶品チーズバーガー」などのヒット商品で一時回復を図りましたが、抜本的な成長には至りませんでした。
2023年、ゼンショーHDがロッテホールディングスからロッテリアを買収。この時点で、ブランド統合への布石は打たれていたといえます。
ゼッテリアとは
ゼッテリア(ZETTERIA)は、ゼンショーがロッテリアに代わって展開する新しいハンバーガーチェーンです。2023年9月、東京・田町に1号店がオープンしました。
ブランド名は、ロッテリア時代からの看板商品「絶品バーガー」の「ゼ(ZE)」と、気軽に楽しめる「カフェテリア(TERIA)」を組み合わせた造語です。単なるファストフード店ではなく、ゆったりと過ごせるカフェのような空間を目指しています。
店舗の特徴
ゼッテリアの店舗は、従来のファストフード店とは一線を画す設計がなされています。
- ゆとりある空間設計:広めの座席間隔、落ち着いた照明
- 現代のライフスタイルに対応:ノートPC用の電源コンセント設置
- 一人客にも配慮:カウンター席の拡充
- 注文のデジタル化:テーブルに設置されたタブレットでの注文システム
週刊文春は「ファストフード店とは思えない空間」と評しており、「ファストフードなのにゆっくりできる店」というコンセプトが特徴です。
ブランド統廃合の背景
40ブランドの見直し
ゼンショーグループは、M&Aによる積極的な事業拡大で知られています。「すき家」「はま寿司」「ココス」「ビッグボーイ」「なか卯」など、国内外で約40のブランドを展開してきました。
しかし、ブランド数の増加は経営資源の分散を招きます。仕入れ、製造、物流がブランドごとに異なり、規模のメリットを十分に活かせていない課題がありました。
小川洋平社長は就任後、「カテゴリー別で1位を目指すことが難しい場合は整理していくことが考えられる」と明言。勝ち目のない事業からは撤退し、成長が見込める事業に経営資源を集中させる方針を示しています。
カフェ事業からの撤退
今回の戦略転換で注目されるのが、カフェ事業からの撤退です。詳細は明らかにされていませんが、競争が激しいカフェ市場で業界トップを目指すことは難しいとの判断があったと見られます。
外食産業では、スターバックスやドトールなど強力な競合が存在するカフェ市場よりも、自社の強みを活かせる分野に集中することが、限られた経営資源の有効活用につながります。
「第3の柱」としてのゼッテリア
すき家、はま寿司に続く成長エンジン
ゼンショーグループの収益を支えてきたのは、牛丼チェーン「すき家」と回転寿司「はま寿司」の2大ブランドです。特に近年は、海外でのテイクアウト寿司事業が急成長しており、2025年3月期の海外新規出店数は前期比5割増の1,321店に達する見通しです。
しかし、事業リスクを分散し、持続的な成長を実現するためには、新たな収益の柱が必要です。その候補として位置づけられているのがゼッテリアです。
店舗数の拡大計画
2025年12月末時点で、日本国内にはロッテリア106店舗、ゼッテリア172店舗の計278店舗が展開されています。3月の全面転換後は、ゼッテリアとして約280店舗体制となる見通しです。
これは、マクドナルド(約3,025店舗)、モスバーガー(約1,309店舗)、バーガーキング(約337店舗)に続く国内4位の規模です。店舗数ではまだ差がありますが、独自のポジショニングで差別化を図る戦略と見られます。
統合のメリットと課題
経営効率の向上
ブランド統合の最大のメリットは、経営効率の向上です。ロッテリアとゼッテリアは「絶品チーズバーガー」など同名のメニューを提供していましたが、調達・製造・物流システムが異なり、使用する食材も別々でした。
ブランドを統一することで、以下の効果が期待できます。
- 共同仕入れによるコスト削減
- 物流網の統合による効率化
- 店舗運営ノウハウの共有
- ブランド投資の集中
消費者の反応は賛否両論
一方で、消費者の反応は分かれています。SNS上では「近所のロッテリアがなくなってしまった」「ロッテリアを返して」といった声が見られる一方、「名前が変わっただけでは?」「ロッテリアとの違いがわからない」といった冷めた反応も。
長年親しまれてきたブランドの消滅に対する惜しむ声は根強く、ゼッテリアとしての新たなブランド価値の確立が課題となります。
外食業界の競争環境
価格競争と差別化
日本のハンバーガー市場は、マクドナルドが圧倒的なシェアを持ち、価格競争が激しい分野です。この中でゼッテリアが選んだのは、「カフェのような空間」「ゆっくり過ごせる店」という差別化戦略です。
ゼッテリアの看板商品「絶品ビーフバーガー」は540円からと、ロッテリア時代の価格設定より高めに設定されています。基本的なハンバーガーは250円からですが、付加価値の高い商品で客単価を上げる戦略がうかがえます。
人手不足への対応
外食産業全体が人手不足に直面する中、ゼッテリアはテーブル注文システムの導入など、省人化にも取り組んでいます。店舗運営の効率化は、今後の事業拡大において不可欠な要素です。
今後の展望
海外展開の可能性
ゼンショーグループは海外事業を積極的に拡大しており、特にテイクアウト寿司事業が米国や英国で急成長しています。ゼッテリアについても、国内での成功を足がかりに、将来的な海外展開の可能性が考えられます。
ブランド育成の課題
ただし、新ブランドの育成には時間がかかります。ロッテリアは54年かけて築いた知名度がありましたが、ゼッテリアはまだ歴史が浅く、消費者への浸透はこれからです。
「第3の柱」として確立するためには、継続的なブランド投資と、消費者に支持される店舗体験の提供が求められます。
まとめ
ゼンショーHDによるロッテリアのゼッテリア転換は、多角化路線から「選択と集中」への戦略転換を象徴しています。約40ブランドの統廃合を進め、勝ち目のある事業に経営資源を集中させる判断は、外食大手として王道の戦略といえます。
ロッテリアという54年続いたブランドの消滅を惜しむ声は少なくありませんが、ゼッテリアとして新たな価値を提供できるかどうかが、今後の成功を左右するでしょう。「すき家」「はま寿司」に続く「第3の柱」となれるか、ゼンショーの挑戦が始まっています。
参考資料:
関連記事
ロッテリア54年の歴史に幕、ゼンショーの統一ブランド戦略
ゼンショーホールディングスがロッテリア全店をゼッテリアに転換。M&Aで成長してきた外食最大手のブランド統廃合戦略と、ハンバーガー市場での競争力強化の狙いを解説します。
ゼンショーがゼッテリアに全面転換、多角化から選択と集中へ
ゼンショーホールディングスがロッテリア全店をゼッテリアに転換し、カフェ事業から撤退。外食業界トップの座を守りながら、40ブランドの統廃合で「勝てる業態」に経営資源を集中する戦略を解説します。
ロッテリア54年の歴史に幕、ゼッテリア全店転換の背景
ゼンショーHDがロッテリア全店を「ゼッテリア」に転換。1972年から続いた国内ブランドが消滅する経緯と、ゼンショーのバーガー事業戦略を解説します。
ロッテリア54年の歴史に終止符、ゼッテリアへ全店転換
ゼンショーHDが国内ロッテリア全店を2026年3月にゼッテリアへ転換。1972年創業の老舗バーガーチェーンの歴史と、すき家を展開する外食最大手の戦略を解説します。
大手証券5社が13%増益、株高とM&A活況で好調な4〜12月期決算
野村、大和、SMBC日興など大手対面証券5社の2025年4〜12月期純利益が7294億円に。株高を背景とした預かり資産収益の増加と、活発なM&Aによる投資銀行業務の好調が寄与しました。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。