ASML過去最高益、AI半導体需要が成長を牽引
はじめに
オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングが2026年1月28日、2025年10〜12月期(第4四半期)および通期決算を発表しました。AI向け半導体需要の急拡大を背景に、通期の純利益は96億ユーロ(約1兆7,600億円)と過去最高を記録しています。
ASMLは半導体の微細化に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置を世界で唯一量産できる企業です。AIブームによる先端半導体の需要拡大は、ASMLの業績に直接的な恩恵をもたらしています。本記事では、同社の最新決算の内容と、2026年以降の成長見通しについて詳しく解説します。
2025年通期決算:6四半期連続の増収増益
売上高・利益ともに過去最高を更新
ASMLの2025年通期の売上高は327億ユーロ、粗利益率は52.8%を記録しました。純利益は96億ユーロで、1株当たり利益(EPS)は24.73ユーロに達しています。フリーキャッシュフローも110億ユーロと潤沢です。
特に好調だったのが第4四半期です。売上高は97億ユーロと四半期ベースで過去最高を記録しました。これにはHigh NA(高開口数)EUVシステム2台分の売上が含まれています。純利益も28億3,900万ユーロと前年同期比5%増で、四半期最高益を更新しました。
EUVシステムが業績を牽引
EUVシステムの売上は通期で116億ユーロとなり、前年比39%増と大幅に伸びました。2025年中に48台のEUVシステム(High NA含む)を出荷しています。
セグメント別では、ロジック(演算向け)システムの売上が161億ユーロ(前年比22%増)と特に好調でした。メモリシステムは84億ユーロ(同2%減)とやや減速しましたが、インストールドベース管理(保守・アップグレード)事業は82億ユーロ(同26%増)と堅調に成長しています。
AI需要が生む記録的な受注と成長期待
受注額がアナリスト予想の2倍超に
第4四半期の受注額は132億ユーロに達し、アナリスト予想の63.2億ユーロを大幅に上回りました。EUV関連が74億ユーロ、非EUVが58億ユーロで、メモリ向けが56%、ロジック向けが44%という構成です。
年末時点の受注残高は388億ユーロに達しており、そのうち255億ユーロがEUV関連です。この厚い受注残は、今後数年にわたる売上成長の裏付けとなります。
顧客の設備投資計画が加速
ASMLのクリストフ・フーケ(Christophe Fouquet)CEOは、「顧客基盤の大多数で設備拡張計画の顕著な増加と加速が見られる」と述べています。
具体的には、先端ロジック顧客がAIアクセラレータを4nmからよりリソグラフィ集約的な3nmへ移行し、2nmの立ち上げも進行中です。メモリ分野ではHBM(広帯域メモリ)とDDRの需要が非常に強く、供給は少なくとも2026年まで「非常にタイト」な状況が続く見込みです。
High NA EUVの実用化が前進
次世代のHigh NA EUV技術も着実に進展しています。インテルは2025年12月にHigh NAシステム「EXE:5200B」の認定・受領を発表し、量産の最先端ノードでの使用を予定しています。2026年にはさらに多くのHigh NAシステムが顧客に納入される見通しです。
2026年の見通しと注目ポイント
売上高ガイダンスは340億〜390億ユーロ
ASMLは2026年通期の売上高を340億〜390億ユーロ、粗利益率を51〜53%と予想しています。ガイダンスの中央値(365億ユーロ)はアナリスト予想の351億ユーロを上回る水準です。第1四半期の売上高は82億〜89億ユーロを見込んでいます。
EUVシステムからの売上は2026年に前年比で「大幅に増加する」と同社は明言しています。
中国向け売上は縮小へ
一方で、中国市場の比率は低下する見通しです。2025年の中国向け売上は全体の33%(2024年は41%)でしたが、米国主導の輸出規制強化により、2026年は20%程度に低下すると予想されています。
組織再編と長期戦略
ASMLは約1,700人の管理職ポジションを削減し、代わりに1,400人のエンジニア職を新設する組織再編を発表しました。経営層のスリム化と技術力強化を同時に進める戦略です。
また、最大120億ユーロの自社株買いプログラム(2028年末まで)も発表しています。長期的には2030年の売上高を440億〜600億ユーロ、粗利益率56〜60%とするガイダンスを再確認しました。
注意点・展望
ASMLの好業績はAI需要の持続を前提としています。もしAI関連投資が減速した場合、受注キャンセルや業績下振れのリスクがあります。
中国向け売上の減少も注視が必要です。2024〜2025年にかけて中国顧客からの駆け込み需要がありましたが、今後はこの分を他の地域で補う必要があります。
一方で、3nmや2nmへの微細化の進行、HBMの需要拡大、High NA EUVの実用化という複数の成長ドライバーが揃っている点は心強い材料です。半導体の技術進化が続く限り、ASMLの装置は不可欠であり続けます。
まとめ
ASMLは2025年に過去最高の業績を達成し、2026年もさらなる成長が見込まれています。AI向け半導体需要が同社の受注・売上を押し上げており、EUVシステムの需要は今後も拡大する見通しです。
投資家にとっては、AI需要の持続性、中国市場の動向、High NA技術の普及ペースが今後の注目ポイントとなります。半導体産業の構造的な成長を捉えるうえで、ASMLの動向は引き続き重要な指標です。
参考資料:
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