銀行もゼネコンも「脱スーツ」——服装自由化で変わる日本企業の社風
はじめに
かつて「スーツにネクタイ」が絶対的なルールだった銀行やゼネコン業界で、服装自由化の波が広がっています。2024年から2025年にかけて、メガバンクから地方銀行、大手建設会社まで、次々と「脱スーツ」に踏み切りました。
この動きの背景には、若手人材の獲得競争があります。カジュアルな服装で働くことを好む若い世代は、GoogleやAppleなどのIT企業に目を向けがち。それらに対抗するには、従来の堅いイメージからの脱却が必要という判断です。
服装規定の見直しは単なる軽装化にとどまらず、企業文化そのものを変革する「戦略的な動き」として注目されています。
服装自由化の広がり——主な導入事例
メガバンク・地方銀行
銀行業界では、すでにメガバンクが服装自由化を導入しています。三井住友銀行は2019年に服装自由化を開始し、話題を呼びました。
りそなグループでは、スーツやネクタイ着用などのフォーマルな服装を基本としたルールを全拠点で廃止。「従来の銀行」のイメージから脱却し、社内外の多様な人々とリラックスした雰囲気でコミュニケーションを活発化することを目指しています。
地方銀行でも導入が相次いでいます。2025年4月から高知銀行、11月から富山第一銀行が服装自由化を開始しました。七十七銀行もビジネスカジュアルを導入し、女性行員の制服着用義務を見直す動きも広がっています。
ゼネコン業界
建設業界でも変革が進んでいます。大手ゼネコンの大成建設は2024年12月から服装自由化を開始しました。現場作業が多いイメージの建設業界でも、本社や営業部門を中心に、スーツ以外の服装を認める動きが広がっています。
機械大手の三機工業も2025年6月から服装自由化を導入。製造業やエンジニアリング企業にも波及しています。
自治体での導入
民間企業だけでなく、自治体でも服装自由化が進んでいます。大阪府や東京都新宿区のほか、浜松市でも2025年11月から軽装での勤務通年化を開始しました。
公務員の職場でもビジネスカジュアルが浸透しつつあり、「お堅い」イメージからの脱却が図られています。
なぜ今「脱スーツ」なのか
人材獲得競争の激化
服装自由化の最大の狙いは、若手人材の確保です。就職活動において、企業の働きやすさや自由度を重視する学生が増えています。
カジュアルな服装でリラックスして働ける環境は、AppleやGoogleなどのIT企業が早くから取り入れてきました。銀行やゼネコンがこれらの企業と人材を奪い合うには、旧来の「スーツ必須」の文化が障壁となっていました。
個性の尊重と多様性
服装の自由化は、社員一人ひとりの個性を尊重するメッセージにもなります。性別や年齢を問わず、自分らしい服装で働けることは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進の一環としても位置づけられています。
女性行員の制服廃止も、この文脈で進んでいます。制服は統一感を生む一方で、女性だけに着用を義務づけることへの疑問の声もありました。
業務効率の向上
スーツからカジュアルな服装に変わることで、動きやすさや快適性が向上します。特に夏場のクールビズ推進と相まって、軽装化による業務効率の向上も期待されています。
また、毎朝の服選びの負担軽減や、スーツ代・クリーニング代の節約といった実利的なメリットもあります。
服装自由化がもたらす変化
「従来の銀行」イメージからの脱却
りそなグループは、服装自由化の狙いを「従来の銀行のイメージからの脱却」と明確に打ち出しています。堅実で保守的というイメージは、信頼感につながる一方で、変化を嫌う組織という印象も与えかねません。
服装を変えることは、社員の意識変革にもつながります。「何を着るか」を自分で考えることで、主体性や自律性が育まれる効果も期待されています。
コミュニケーションの活性化
服装がカジュアルになることで、社内のコミュニケーションが活発になるという効果も報告されています。スーツという「鎧」を脱ぐことで、上下関係を超えた対話がしやすくなるという声もあります。
顧客対応においても、過度にフォーマルな服装より、親しみやすい印象を与えられる場面があるとの見方もあります。
戦略的な「高度化」
服装規定の緩和を進める企業の中には、単なる軽装化ではなく、職場の服装を戦略的に再考する「高度化」とも呼べる動きも見られます。
場面に応じて適切な服装を自ら選ぶことで、ビジネスパーソンとしての判断力や対応力を養う狙いです。重要な商談ではスーツを着用し、社内ミーティングではカジュアルにするなど、TPOに応じた使い分けが求められます。
導入時の課題と対応
どこまでがOKか
服装自由化で最も難しいのは、「どこまでがOKか」という線引きです。あまりに自由すぎると、取引先や顧客に不快感を与えるリスクもあります。
多くの企業では、ガイドラインやNGリスト(ジーンズ、サンダル、派手すぎる色など)を設けつつ、基本的には社員の判断に委ねるアプローチを取っています。
顧客対応時の服装
営業や窓口など、顧客と直接接する部門では、服装自由化の運用に配慮が必要です。顧客の年齢層や業界によっては、カジュアルな服装がマイナスに働く場合もあります。
多くの企業では、「顧客対応時は状況に応じて判断する」というルールを設けています。重要な商談や年配の顧客との面談では、従来通りスーツを着用するケースも少なくありません。
移行期の混乱
長年スーツを着てきた社員にとって、急な服装自由化は戸惑いを生むこともあります。「何を着ればいいかわからない」「カジュアルすぎて浮いてしまわないか心配」といった声も聞かれます。
企業によっては、コーディネート例を社内で共有したり、専門家によるセミナーを開催したりして、円滑な移行を支援しています。
今後の展望
さらなる業界への波及
服装自由化の流れは、今後さらに多くの業界に広がると予想されます。製造業、商社、保険業界など、従来はスーツが当然だった業界でも、見直しの動きが出てくる可能性があります。
一方で、法律事務所や会計事務所など、専門性と信頼感を重視する業界では、従来の服装規定が維持される傾向も見られます。
「選択」の時代へ
将来的には、「全員スーツ」でも「全員カジュアル」でもなく、一人ひとりが場面に応じて選択する時代が来ると予想されます。
重要なのは、服装の自由化が「楽をする」ことではなく、「自ら考える」ことを促す施策だという点です。ビジネスパーソンとしての判断力を養う機会として、服装自由化を活用する視点が求められます。
まとめ
銀行やゼネコンなど、かつては「スーツ必須」だった業界で服装自由化が急速に広がっています。2024年から2025年にかけて、大成建設、高知銀行、富山第一銀行、浜松市など、業種を問わず導入が相次ぎました。
背景には若手人材の獲得競争があり、IT企業に負けない働きやすさをアピールする狙いがあります。また、個性の尊重や業務効率の向上、企業文化の変革といった効果も期待されています。
服装自由化は単なる軽装化ではなく、社員の主体性を育み、組織を変革する戦略的な動きです。今後も多くの業界に波及し、日本企業の働き方そのものを変えていく可能性があります。
参考資料:
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