キヤノン社長に小川副社長、御手洗氏の後継が明確に
はじめに
キヤノンは2026年1月29日、小川一登取締役副社長(67)が社長COO(最高執行責任者)に昇格する人事を発表しました。御手洗冨士夫会長兼社長CEO(90)は会長CEOとして引き続きグループ全体の指揮を執りますが、1995年の社長就任から約30年間トップに立ち続けた同氏の後継者が初めて明確になりました。
2026年3月の株主総会後に就任する見通しで、キヤノンの経営体制は新たな局面を迎えます。本記事では、この人事の背景と小川氏の人物像、そして「新トロイカ」体制の意味を解説します。
小川一登氏の経歴と強み
海外経験30年の国際派
小川一登氏はキヤノンの中でも際立った国際派です。シンガポールやカナダの販売子会社の社長を歴任するなど、海外駐在歴は合計約30年に及びます。グローバルに事業を展開するキヤノンにとって、現地市場を熟知したリーダーの登用は合理的な選択です。
御手洗氏自身も米国勤務23年という海外経験の持ち主であり、「優れたリーダーシップと幅広い国際経験はキヤノンが次なる世代へ歩むうえで不可欠」と小川氏の資質を評価しています。
社長COOとしての役割
小川氏は社長COOとして日常の業務執行を担います。一方、御手洗氏は会長CEOとしてグループ全体の経営戦略を引き続き統括する「ツートップ体制」です。2030年12月までの中期経営計画の達成に向け、二人三脚で経営にあたる構図です。
30年間の御手洗体制を振り返る
キャッシュフロー経営への転換
御手洗冨士夫氏は1995年、従弟の御手洗肇氏の死去を受けて第6代社長に就任しました。米国仕込みの合理的経営手法を導入し、キヤノンの体質を大きく変えました。
「選択と集中」を掲げ、液晶ディスプレイやパソコン事業から撤退。プリンター、カメラ、半導体製造装置に経営資源を集中させました。セル生産方式の導入で生産効率を高め、8,400億円を超える有利子負債を事実上完済し、日本有数のキャッシュリッチ企業へと変貌させた手腕は高く評価されています。
長期トップ体制の功罪
一方で、30年にわたるトップ体制には課題もありました。御手洗氏(90歳)、田中稔三副社長CFO(84歳)、本間利夫副社長(76歳)が上位3席を長期にわたって占める構図は、グローバル企業としては異例です。
2024年12月期にはようやく2007年12月期に記録した最高売上高を17年ぶりに更新しましたが、純利益は2007年の最高益の約3分の1の水準にとどまっています。デジタルカメラ市場の縮小や、プリンター事業の構造変化という外部環境の変化があったとはいえ、経営刷新の遅れを指摘する声も社内外にありました。
「新トロイカ」体制の意味
世代交代への第一歩
キヤノンの経営は長らく御手洗氏を中心とした「トロイカ体制」で運営されてきました。今回の人事は、67歳の小川氏を軸とした「新トロイカ」への移行を示すものです。
ただし、御手洗氏が会長CEOとして残るため、完全な世代交代とは言えません。今後2年程度は引き継ぎ期間と位置づけられ、経営の実権がどのタイミングで小川氏に完全移行するかが注目されます。
中期経営計画との連動
小川氏の社長就任は、2030年までの中期経営計画と連動しています。半導体露光装置事業の拡大、医療機器事業の成長、ネットワークカメラ事業のソリューション化など、キヤノンが推進する事業構造転換を小川新社長のもとで加速させる狙いがあります。
注意点・展望
今回の社長交代で最も注目すべきは、御手洗氏がCEOの座に留まる点です。社長職は退くものの、最高経営責任者としてのポジションは維持しており、経営の最終意思決定権がどちらにあるかは外部からは見えにくい構図です。
市場やガバナンスの観点からは、CEOと社長COOの権限分担の明確化が求められます。また、取締役会の若返りや社外取締役の役割強化など、コーポレートガバナンス全体の改革も課題として残っています。
小川氏のリーダーシップが本格的に発揮されるのは、御手洗氏がCEOを退任するタイミングです。その時期と移行プロセスの設計が、キヤノンの次の10年を左右するでしょう。
まとめ
キヤノンの経営体制移行が本格始動しました。海外経験豊富な小川一登副社長が社長COOに昇格し、90歳の御手洗冨士夫氏の後継者として明確に位置づけられました。30年続いた御手洗体制の世代交代は、まだ完全ではありませんが、重要な一歩です。
投資家やステークホルダーにとっては、ツートップ体制における意思決定の実態と、CEO交代のタイムラインが今後の重要な注目点となります。
参考資料:
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