Research

Research

by nicoxz

企業不祥事を防ぐ3つの鍵「風化」「風景化」「風通し」とは

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

企業にとって社会からの信頼は存続基盤の根幹です。しかし、不祥事は昨今も後を絶ちません。ビッグモーターによる保険金不正請求、ダイハツの認証不正、宝塚歌劇団のパワハラ問題など、2023年から2024年にかけても大企業の不祥事が相次ぎました。

元消費者庁長官の板東久美子氏は、不祥事を防ぐための鍵として「風化」「風景化」「風通し」という3つのキーワードを挙げています。これらは単なる言葉遊びではなく、組織の健全性を維持するための本質的な視点を示しています。

本記事では、これら3つの視点を軸に、企業不祥事を防ぐための組織づくりについて解説します。雪印メグミルクの事例など、実際の企業の取り組みも紹介しながら、持続可能な企業経営のあり方を考えます。

「風化させない」─過去の教訓を未来につなげる

事件を忘れないための仕組み

不祥事が発生した場合、その事件を「風化させない」ことが第一のポイントです。事件の記憶は時間とともに薄れていきますが、それを防ぎ、組織の在り方を変え、取り組みを常に進化させていく原点とすることが重要です。

雪印メグミルクは、2000年の集団食中毒事件と2002年の牛肉偽装事件という2つの深刻な不祥事を経験しました。同社は「食の責任を強く認識し、果たしていくことを誓う日の活動」を、事件発生月である6月と1月に毎年実施しています。2003年度に初回を実施して以来、2024年度で44回の開催となりました。

継続的な振り返りの重要性

「何が起きたか、どうして起きたか、どう対応したか、その後に何を変えたか」を忘れずに語り継いでいくことが、風化を防ぐ鍵となります。人の価値は失敗ではなく、その後の行動で決まるように、企業も同様です。

雪印メグミルクでは、全従業員を対象にコンプライアンスを中心としたアンケートを2年に1回実施し、その結果に基づいて現状の実態把握を行い、翌年に抽出した課題について対応しています。過去の教訓を形骸化させず、継続的に組織に活かす仕組みが整えられています。

「風景化させない」─当たり前を疑う姿勢

違和感を見逃さない

不祥事を防ぐ第二のポイントは「風景化させない」ことです。これは、不正や問題行為が日常の一部となり、誰も疑問を持たなくなる状態を防ぐという意味です。

組織には独自の「組織風土」が存在し、その影響で構成員の価値観や思考が均質的・画一的になりがちです。社内の不正や問題を客観的・中立的な視点で捉えることが難しくなり、「うちでは昔からこうやっている」「みんなやっている」という理由で問題行為が見過ごされてしまいます。

「属人思考」の危険性

「属人思考の風土」が強い組織では、法令違反の放置、不正のかばいあい、不祥事隠蔽の指示、上司や同僚の不正容認、規定の手続きの省略といった組織的違反が減ることは望めないとされています。

「あの人が言うのだから間違いない」「先輩がやっているのだから大丈夫」という思考は、組織の中で問題を風景化させる大きな要因となります。常に「本当にこれでいいのか」と問い直す姿勢が、健全な組織を維持する上で欠かせません。

「風通しを良くする」─健全なコミュニケーションの確保

心理的安全性の重要性

不祥事防止の第三のポイントは「風通しを良くする」ことです。組織内で自由に意見を言える環境、特に「悪い情報」を共有できる環境を整備することが重要です。

心理的安全性(チームのメンバーが安心して自分の意見を言ったり、失敗を恐れずに挑戦したりできる環境)が確保されていないと、「上司に意見を言えない」「同僚のコンプライアンス違反を指摘できない」などの事態に陥りやすくなります。不正があったらすぐに指摘できる風土づくりが、不祥事の芽を早期に摘むことにつながります。

「悪い情報」の共有

リスク情報を組織の中でどのようにハンドリングするかによって、コンプライアンス問題は大きく左右されます。特に大事なのが「悪い情報」の共有であり、「リスクの芽は早期に潰していかなければいけない」という意識を経営者から管理職、従業員まで全社で持つことが必要です。

コンプライアンス問題を未然に防ぐためのポイントは、「問題には小さいうちに真剣に対応し、1つひとつ確実に解決する」ということです。毎日発生する様々な小さな問題を先送りせず、その場で対処し、それを習慣として続けることが重要です。

経営トップの役割

インテグリティの体現

不祥事防止において、経営トップの役割は極めて重要です。経済産業省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」では、グループ本社の経営トップ自らが「インテグリティ(誠実・真摯・高潔)」を身をもって示すことの重要性を説いています。

コンプライアンス重視の価値観について、グループ子会社の現場に対して直接、繰り返しメッセージを発信することで、意識を浸透させ、現場における自律的な遵守の風土づくりに努めることが求められています。

明確なメッセージの発信

内部統制システムが有効に機能する前提条件として、企業のトップが組織目標としてコンプライアンスを重視するという明確なメッセージを掲げることが必要です。これが役職員、管理者にも浸透し、コンプライアンスに常に気を配るという企業文化が醸成されることで、初めて不祥事防止の仕組みが機能します。

雪印乳業では、事件後に外部の有識者を招へいした「経営諮問委員会」を設置し、社内の風通しの悪さの改善や広報体制の充実に取り組みました。社員の有志で「雪印体質を変革する会」を発足させ、全社の職員をグループに分けて月1回の討議を実施するなど、ボトムアップの取り組みも並行して進められました。

具体的な予防策

組織風土の定期的な点検

不祥事を予防するためには、自社のコンプライアンスの状況を正確に把握することが必要です。制度や運用状況だけでなく、企業風土や社員への意識の浸透度合いなどの実態を正確に把握することで、自社の弱点や不祥事の兆候を認識できます。

組織風土に関する調査の実施に加え、継続的なコンプライアンス研修の実施、OJTにおける職業倫理や規範意識の指導、内部通報制度の整備といった日常的な取り組みも欠かせません。

早期発見・早期対応のサイクル

コンプライアンス違反をできるだけ早く把握し、速やかに対処することで、重大な不祥事への発展を未然に防止できます。早期発見、迅速な対処、業務改善という一連のサイクルを企業文化の中に定着させることが重要です。

「不正を許さない」「当たり前のルールを守る」というスタンスが根付いている組織では、新入社員もルールに従いやすくなります。まずはマネジメント層の意識改革から始め、組織全体にコンプライアンス重視の文化を浸透させていくことが求められます。

今後の展望と注意点

形骸化を防ぐ工夫

コンプライアンス研修や内部通報制度など、不祥事防止のための仕組みを導入している企業は多くあります。しかし、これらが形骸化してしまっては意味がありません。「風化」「風景化」を防ぐためには、常に仕組みの実効性を検証し、改善を続ける姿勢が重要です。

外部の目を活用する

自社だけでは気づきにくい問題もあります。第三者委員会の設置や外部監査の活用、社外取締役の積極的な関与など、外部の目を活用することも有効な手段です。閉鎖的な組織風土を打破し、客観的な視点を取り入れることで、「風景化」した問題を発見できる可能性が高まります。

まとめ

企業不祥事を防ぐためには、「風化させない」「風景化させない」「風通しを良くする」という3つの視点が重要です。過去の教訓を忘れず、問題を日常の一部として見過ごさず、組織内で自由に意見を言える環境を整備することが、健全な組織を維持する鍵となります。

雪印メグミルクが20年以上にわたって「食の責任を誓う日」の活動を続けているように、不祥事防止は一時的な取り組みではなく、継続的な努力が求められます。経営トップ自らがインテグリティを体現し、全社でコンプライアンス重視の文化を醸成することで、社会からの信頼を守り続けることができるのです。

参考資料:

関連記事

損保ジャパンが代理店手数料制度を改革、ガバナンス評価を導入

損保ジャパンが2026年春から代理店の評価制度を刷新し、法令順守体制が不十分な代理店の手数料を引き下げる仕組みを導入。ビッグモーター事件を受けた業界全体の改革の一環として、顧客本位の業務運営への転換を目指す。

最新ニュース