Research

Research

by nicoxz

損保ジャパンが代理店手数料制度を改革、ガバナンス評価を導入

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

損害保険ジャパンは2026年春から保険代理店の評価制度を大幅に刷新し、法令順守体制が守られていない代理店への手数料を引き下げる仕組みを導入します。この改革は約3万の代理店が対象となり、旧ビッグモーターによる保険金不正請求事件を契機とした業界再編の核心となる取り組みです。損保業界全体が契約数重視から顧客本位へと舵を切る中、損保ジャパンの今回の改革は代理店の自立を促し、不祥事の再発防止を徹底する狙いがあります。本記事では、この評価制度刷新の背景、具体的な変更点、そして損保業界全体に与える影響について詳しく解説します。

代理店手数料ポイント制度の仕組みと従来の課題

現行制度の基本構造

損害保険会社が代理店に支払う手数料は、一般的に「損害保険料×手数料率×手数料ポイント」という計算式で算出されます。手数料率は15~20%程度で、ポイントは20~110点まで差がつく仕組みです。この手数料ポイントは2003年4月から各損害保険会社が独自に導入し、「規模・増収率」「収益性」「業務品質」という観点から評価される構成になっています。

具体的な評価項目には、保険販売のボリュームや伸び率、ペーパーレス申込手続きの割合、顧客アンケート結果、アフターフォローの実施状況、早期解約率、複数種目販売、コンプライアンス体制などが含まれます。

規模重視がもたらした弊害

従来の制度では「規模」評価の比重が極めて高く、損保ジャパンの場合2025年度時点で約80%を占めていました。契約が多いほど支払額が増える仕組みは、大規模な保険代理店に業務品質を軽視する不適切なインセンティブを与え、結果として不適切な保険募集を誘引する要因となっていました。

2023年に発覚したビッグモーター事件では、従業員が意図的に車両を損傷させ、保険金を不正請求していた実態が明らかになりました。損保ジャパンは当初被害者と思われていましたが、金融庁の調査で不正を知りながら見過ごし、むしろ不正請求を助長するような業務体制を維持していたことが判明しました。この事件を受け、金融庁は2024年1月25日、損保ジャパンとその親会社SOMPOホールディングスに対して保険業法に基づく業務改善命令を発出しました。

2026年春からの新評価制度の詳細

ガバナンス評価の導入

損保ジャパンが導入する新しい評価制度の最大の特徴は、法令順守体制が守られていない場合に代理店への手数料を引き下げる仕組みです。これまで評価項目になかったガバナンス体制そのものを明確に評価対象とすることで、代理店に対して内部統制の強化を促します。

具体的には、2026年7月から「手数料ポイント制度」の評価項目から、顧客本位でない3項目を除外する方針を固めています。その一つがペーパーレス手続き率です。損保ジャパンはペーパーレスの手続き率を評価から廃止しました。顧客が紙の方が良いという場合があるためで、形式的な効率化よりも顧客の意向を優先する姿勢を明確にしています。

規模評価の大幅縮小

損保ジャパンは2025年度の約80%だった規模評価の比重を、2029年度までに約50%にする計画です。規模評価の縮小と引き換えに品質評価の比重を上げることで、契約数ではなく顧客満足度や業務品質が収入に直結する構造へと転換します。

他の大手損保も同様の方針を打ち出しており、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険は規模での評価を約40%に抑えています。東京海上日動火災保険とあいおいニッセイ同和損保は「シェア」評価を廃止し、顧客の意向を最優先することを重視しています。

自己完結度という新指標

損保各社が新たに導入する評価指標の一つが「自己完結度」です。これは損保の社員に頼らず、代理店が自立して店舗運営を行っているかを測る指標で、顧客対応や事務処理を自社で完結できる代理店ほど高い評価を得られる仕組みです。これにより、損保会社への過度な依存から脱却し、代理店の独立性と専門性の向上が期待されています。

保険業法改正と業界全体の構造改革

2026年6月施行の保険業法改正

損保ジャパンの評価制度改革は、2026年6月1日から施行される保険業法改正と軌を一にしています。2025年6月6日に公布された改正保険業法は、ビッグモーター事件と保険料調整行為事案の再発防止を図り、顧客本位の業務運営を徹底して健全な競争環境を実現することを目的としています。

改正の主な内容は、(1)特定大規模乗合損害保険代理店の体制整備義務の強化、(2)兼業代理店に対する業務管理体制の整備義務の強化、(3)保険契約の締結等に関する禁止行為の範囲の拡大、(4)保険仲立人に関する変更等の届出義務の対象の追加です。

大規模代理店への上乗せ規制

規模の大きい乗り合い代理店約100社を対象に規制を強化するのが法改正の柱です。営業所ごとにコンプライアンス責任者、本店にはその統括責任者を置く義務が設けられました。特定大規模乗合損害保険代理店には、法令等遵守責任者・統括責任者の設置、苦情処理体制といった上乗せ義務が追加されています。

法令等遵守に係る基本方針及び遵守基準の策定、コンプライアンス・マニュアルの策定と周知徹底、コンプライアンス・プログラムの策定が求められており、形式的なコンプライアンス体制ではなく、実効性のある法令順守体制の構築が必要となっています。

第三者評価制度の導入検討

損保業界全体では、第三者機関による保険代理店業務品質評価制度の導入も検討されています。消費者の78.6%が「非常にそう思う」または「ややそう思う」と信頼向上につながると回答しており、客観的な評価制度への期待が高まっています。

「代理店業務品質評価に関する第三者検討会」が取りまとめた「代理店業務品質に関する評価指針」の「自己点検チェックシート」への対応が始まっており、2026年度からの本格運用に向けて現在トライアル運用が実施されています。

代理店への影響と今後の展望

中小代理店への影響

規模評価の縮小は、大手代理店に有利だった従来の仕組みを是正し、中小代理店にも成長の機会をもたらす可能性があります。顧客満足度や業務品質で高い評価を得られれば、契約数が少なくても十分な手数料収入を確保できるようになるためです。

一方で、自己完結度やコンプライアンス体制の強化には一定の投資が必要となるため、体力のない零細代理店にとっては負担となる可能性があります。業界再編が進む中で、専門性を磨いて生き残る代理店と、淘汰される代理店の二極化が進むと予想されます。

顧客本位の業務運営への転換

今回の改革の最大の目的は、損保業界全体を顧客本位の業務運営へと転換することです。従来は契約数を増やすことが代理店の最優先課題でしたが、新制度では顧客の意向を最優先し、適切な商品を提案することが評価される仕組みになります。

保険会社と代理店の関係性も変わりつつあります。保険会社が代理店を管理・統制する関係から、代理店が独立した事業者として専門性を発揮し、保険会社と対等なパートナーシップを築く関係へと移行することが期待されています。

不祥事再発防止の実効性

ガバナンス評価の導入や法令順守体制の強化により、ビッグモーター事件のような不祥事の再発防止が期待されます。しかし、制度の実効性を担保するためには、形式的なチェック体制ではなく、実質的な監視と是正が機能する仕組みが不可欠です。

金融庁も監督を強化しており、保険会社には代理店の業務品質や法令遵守の状況を踏まえた割増引率の設定を行うことが求められています。損保協会公表「代理店業務品質に関する評価指針」等に照らした課題の洗い出しが継続的に行われる見通しです。

まとめ

損保ジャパンの代理店評価制度改革は、ビッグモーター事件を契機とした損保業界全体の構造改革の一環です。法令順守体制が不十分な代理店への手数料引き下げ、規模評価の大幅縮小、自己完結度という新指標の導入により、契約数重視から顧客本位への転換を目指しています。

2026年6月施行の保険業法改正と合わせて、大規模代理店へのコンプライアンス体制強化、第三者評価制度の導入など、多層的な改革が進行中です。これらの取り組みが実効性を持つかどうかは、今後の運用次第ですが、損保業界の信頼回復と健全な競争環境の実現に向けた重要な一歩となることは間違いありません。

消費者にとっては、より質の高い保険サービスを受けられる環境が整うことが期待されます。代理店選びの際には、契約数の多さだけでなく、顧客満足度やコンプライアンス体制といった質的な側面にも注目することが重要になるでしょう。

参考資料:

関連記事

最新ニュース