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by nicoxz

デンソー・アイシンが進めるレアアース削減戦略の全貌

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はじめに

トヨタ自動車系の主要部品メーカーであるデンソーやアイシンが、レアアース(希土類)の使用量を削減した製品開発を加速させています。2025年4〜12月期の決算発表に伴う記者会見では、各社幹部からレアアースや半導体などサプライチェーンに潜むリスクへの懸念が相次いで表明されました。

世界のレアアース生産の約7割を中国が占める中、日本の自動車産業にとって供給リスクへの対応は喫緊の課題となっています。本記事では、デンソー・アイシンをはじめとするトヨタ系部品メーカーの最新動向と、日本企業全体で進む「脱レアアース」「脱中国依存」の取り組みを解説します。

レアアースの中国依存と供給リスク

日本が直面する構造的問題

現在、世界のレアアース生産量の約70%を中国が占めています。さらに、鉱石の製錬やレアアースを使った磁石の生産においても、中国は圧倒的なシェアを握っています。

日本のレアアース輸入における中国依存度は、2010年の尖閣諸島問題発生時の約90%から現在は約60%にまで低下しました。しかし、EV(電気自動車)やハイブリッド車に不可欠なネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウムやテルビウムなどの「重希土類」については、ほぼ100%を中国に依存している状況が続いています。

中国の輸出規制強化の動き

中国政府は2025年4月、サマリウムやジスプロシウムなど7種類のレアアースを輸出管理の対象に追加しました。さらに2026年1月には、軍事用途に転用される可能性のあるデュアルユース品について、日本向け輸出を禁止する措置を発表しています。

野村総合研究所の試算によると、中国がレアアース輸出規制を3か月間継続した場合、日本の生産減少額・損失額は約6,600億円に達するとされています。これは年間の名目・実質GDPを0.11%押し下げる規模です。規制が1年間続くシナリオでは、損失額は約2.6兆円にまで膨らむ可能性があります。

デンソーが開発する革新的な磁石技術

鉄ニッケル超格子磁石の実用化へ

デンソーは、レアアースを一切使用しない革新的な磁石の開発を進めています。鉄とニッケルのみで構成される「鉄ニッケル超格子磁石」を5〜10年以内に実用化する方針を示しています。

この磁石は、鉄とニッケルの原子を規則正しく配列することで、従来のネオジム磁石と同等かそれ以上の性能を実現できるとされています。まずは小型モーターへの採用を目指し、将来的には電動車用モーター向けの実用化も視野に入れています。

量産化に向けた課題と取り組み

鉄ニッケル超格子磁石の量産化には、原子レベルでの精密な配列制御が必要となります。デンソーは現在、材料メーカーと共同で量産技術の確立に向けた研究開発を進めています。

この技術が実用化されれば、資源の偏在リスクから解放されるだけでなく、コスト面でも大きなメリットが期待できます。レアアースの価格変動に左右されない安定した部品調達が可能になるためです。

日本企業全体で進む脱レアアース戦略

4つの柱による多角的アプローチ

日本は中国産レアアースからの依存脱却に向けて、4つの主要な取り組みを推進しています。

第1の柱は「調達先の多様化」です。オーストラリア、インド、カザフスタンなど中国以外の国々との連携を強化し、JX金属や大手商社が新たな調達ルートの確保に動いています。

第2の柱は「代替技術の開発」です。プロテリアル(旧日立金属)などが、レアアースを使用しない磁石や材料の研究開発を進めています。プロテリアルは重希土類を使用しない磁石の研究開発において、2026年4月より試作サンプルの提供を開始する予定です。

第3の柱は「国家備蓄の強化」です。JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じた戦略備蓄の拡充を進めています。

第4の柱は「リサイクルの促進」です。使用済み製品からレアアースを回収・再利用する技術の確立と普及を目指しています。

モーター技術の革新

EV向けモーターの分野では、永久磁石を使用しないタイプのモーター開発も進んでいます。巻線界磁モーターや誘導モーターなど、レアアースに依存しない駆動システムの研究が各社で行われています。

また、鉄窒化物や高性能フェライトなど、レアアースの使用を極力抑えた永久磁石の開発も並行して進められています。

南鳥島レアアース泥開発への期待

国産レアアース実現の可能性

日本の排他的経済水域である南鳥島近海の海底から、2013年に重希土類を豊富に含むレアアース泥が発見されました。水深約5,700メートルの海底表層付近に存在するこの資源には、ジスプロシウムは日本の需要の400年分、テルビウムは数百から数千年分が存在するという分析もあります。

試掘は2026年1月に開始される予定で、2027年度中には数十〜数百トン規模の試験採鉱と、陸上での分離・精製プロセスの検証が計画されています。順調に進めば、2028〜2030年頃の本格採掘開始が想定されています。

実用化への課題

深海からの採掘という技術的なハードルに加え、採算性の確保も重要な課題です。ただし、地政学的リスクの軽減という観点から、国としての支援体制も整いつつあります。

半導体サプライチェーンへの備え

新たなリスク要因の顕在化

レアアースと並んで、自動車部品メーカーが注視しているのが半導体の供給リスクです。デンソーは炭化ケイ素(SiC)パワー半導体を使用するインバーターの開発を進め、電力損失の低減によるEVの航続距離拡大に貢献しています。

オランダ政府が中国資本の半導体メーカーであるネクスペリア社を政府管理下に置いたことで、中国政府が対抗措置として同社の中国工場からの半導体輸出を禁止するという事態も発生しています。同社の半導体は汎用性が高く、多くの自動車部品メーカーが採用しているため、日本企業にも影響が及ぶ可能性があります。

研究開発投資の継続

トヨタ系主要部品メーカー7社は、2026年3月期に計1兆2,000億円超を研究開発費に充てる計画です。設備投資も1兆1,000億円超と、3期連続で1兆円を超える規模を維持しています。電動化や自動運転への対応に加え、サプライチェーンリスクへの備えとしての技術開発を継続しています。

今後の展望と課題

短期的な対応の重要性

米国の関税政策の影響もあり、トヨタ系部品メーカーの業績は不透明要因を抱えています。2026年3月期の連結業績見通しには、米国関税政策による営業利益への減益影響として1兆4,500億円が織り込まれています。

サプライチェーンの強靭化と収益確保の両立が求められる中、各社は生産拠点の見直しや調達先の多様化を進めています。

中長期的な技術革新への期待

デンソーの鉄ニッケル超格子磁石や、南鳥島のレアアース泥開発など、中長期的には日本企業の技術力による解決策が見えてきています。多くの企業が2030年頃を目標に、脱レアアース技術の実用化を目指しています。

トヨタやデンソーといった自動車産業のリーダー企業が脱レアアース化を推進していることは、業界全体に大きな影響を与えると考えられます。

まとめ

デンソー・アイシンをはじめとするトヨタ系部品メーカーは、レアアースや半導体のサプライチェーンリスクに対し、積極的な対応策を講じています。鉄ニッケル超格子磁石の開発や調達先の多様化など、複数のアプローチを並行して進めることで、中国依存からの脱却を目指しています。

日本の自動車産業にとって、サプライチェーンの強靭化は競争力維持の生命線です。短期的には調達先の分散や備蓄の活用で対応しつつ、中長期的には代替技術の実用化と国産資源の活用により、持続可能な供給体制の構築が期待されます。

参考資料:

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