衆院選公約は「分配一色」財政規律はどこへ
はじめに
2026年衆院選が2月8日投開票で実施されます。今回の選挙では、与野党がそろって消費税減税を公約に掲げるなど、家計支援策が前面に出ています。物価高に苦しむ国民への支援という観点では歓迎される動きですが、財政規律への配慮が乏しい点に懸念の声も上がっています。
金融市場ではすでに、長期金利が27年ぶりの高水準に上昇し、円安も進行。財政悪化への警戒感が広がっています。この記事では、各党の公約を比較し、財政面での課題を整理します。
各党の消費税減税公約を比較
自民党・日本維新の会:食料品の消費税ゼロを検討
自民党と日本維新の会は2025年10月の連立合意で、「食料品を2年間に限り消費税の対象にしない」ことも視野に法制化を検討すると盛り込みました。
自民党の鈴木俊一幹事長は1月18日のNHK「日曜討論」で消費税減税に言及し、「連立合意を誠実に実現していくのが基本的な立場だ」と強調しています。物価高対策として期間限定の食料品非課税化を進める方向性を示しました。
中道改革連合:食料品消費税ゼロとインボイス廃止
立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」も、食料品の消費税をゼロにすることを公約に掲げています。公明党の西田実仁幹事長は「食料品の消費税をゼロにし、インボイスを廃止する」と訴え、財源として政府系ファンド(SWF)の創設と運用益の活用を提案しています。
国民民主党:5%への引き下げを主張
国民民主党は、「実質賃金がプラスになるまで」という期限付きで、消費税率を現行の10%から5%に引き下げることを公約としています。物価上昇に賃金上昇が追いつかない状況を改善するまでの時限措置という位置づけです。
日本共産党・れいわ新選組:5%減税から廃止へ
日本共産党は、大企業・富裕層への減税見直し、軍事費削減、大企業補助金の見直しなどで30兆円の財源を確保し、消費税を5%に減税することを提案しています。れいわ新選組も将来的な廃止を見据えた減税を主張しています。
立憲民主党:給付付き税額控除への転換
立憲民主党は、一律減税ではなく、中低所得層に税金を直接払い戻す「給付付き税額控除」への転換を提案しています。財政規律を重視しつつ、本当に支援が必要な層に絞った政策を打ち出しています。
金融市場が発する警告
27年ぶりの長期金利上昇
与野党の消費税減税公約を受け、金融市場では財政拡張懸念が強まっています。2026年1月5日、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは一時2.125%に上昇し、1999年2月以来およそ27年ぶりの高水準を記録しました。
財務省が1月6日に実施した10年物国債の入札では、表面利率を2.1%に設定。2025年12月までの1.7%から引き上げられ、1998年1月以来28年ぶりの高水準となりました。
止まらない円安
日銀は2025年12月に政策金利を0.75%へ引き上げ、30年ぶりの高水準としましたが、円安の流れは止まっていません。ドル円は158円を挟んで推移しており、日米金利差の縮小にもかかわらず円安が進行しています。
第一生命経済研究所の熊野英生氏は、日本のインフレリスクや財政不安が日米金利差の縮小を上回る形で作用していると指摘しています。
世界最悪のパフォーマンス
ブルームバーグの分析によると、2025年のパフォーマンスが世界の主要債券市場で最悪だった日本は、2026年も苦難の1年が続く見通しです。高市政権の「責任ある積極財政」政策と日銀の国債買い入れ縮小による供給量増加が市場にショックを与えています。
2026年度の市場へのネット供給額は前年度比約8%増の約65兆円に膨らむ見込みで、過去10年余りで最大となります。
専門家の懸念
財源議論の不在
日本総合研究所の藤本一輝研究員は「給付も減税も家計支援の対象が絞れていない印象だ」と指摘し、「消費税は一度(率を)下げると簡単には戻せない」と警鐘を鳴らしています。
専門家からは「支援ばかり注目され、財政規律や成長戦略はろくに議論されていない」との批判も出ています。党派を超えて財政への目配りが乏しいとみなされれば、金利上昇や円安にさらに拍車がかかるリスクを抱えています。
トラスショックの教訓
2022年に英国で起きた「トラスショック」は、市場との対話を軽視した財政拡張の危険性を示す教訓となっています。当時のトラス首相が打ち出した大規模減税策は、財源の裏付けがないとして市場から猛烈な売り浴びせを受け、わずか49日で首相退陣に追い込まれました。
日本でも同様のシナリオが起きないとは限りません。財政拡張的で金融引き締めに消極的という高市政権のイメージは、投資家の間で根強く残っているとされています。
注意点・今後の展望
選挙後の政策実現性
各党が掲げる消費税減税が選挙後に本当に実現するかは不透明です。財源確保の見通しが立たなければ、公約通りの減税は困難になる可能性があります。また、金融市場の反応次第では、政策の見直しを迫られる事態も考えられます。
2026年の市場で最も注目されるのは「高市政権の財政政策スタンスの行方」であり、メインシナリオに対するリスクバランスとしては、長期金利については上振れリスク、ドル円については円安リスクの方が高めと見られています。
有権者が考えるべきこと
目先の家計支援は魅力的ですが、将来世代への負担先送りという側面も考慮する必要があります。減税の恩恵と財政悪化のリスク、どちらを重視するかは有権者一人ひとりの判断に委ねられています。
まとめ
2026年衆院選では与野党がそろって消費税減税を公約に掲げ、分配政策が前面に出ています。しかし、財政規律への配慮は乏しく、金融市場はすでに長期金利上昇と円安進行という形で警鐘を鳴らしています。
各党の公約を比較検討する際は、減税の内容だけでなく、財源の裏付けや財政全体への影響も考慮することが重要です。選挙戦を通じて、財政規律と家計支援のバランスについて議論が深まることが望まれます。
参考資料:
関連記事
消費税減税に経済界・連合が警鐘、財源不透明で市場も動揺
衆院選で各党が競う消費税減税に経済界と労働団体が懸念を表明。財源不在のまま約5兆円の減収、長期金利上昇で市場は不安定に。
消費税減税で経済界が警鐘、財源なき公約への懸念
2026年衆院選で各党が消費税減税を公約に掲げる中、経済界と労働界が財源不明確を理由に懸念を表明。法人減税縮小への波及や金融市場の動揺が広がっています。
消費税減税で与野党横並び、5兆円の財源問題を検証する
2026年衆院選で与野党の大半が消費税減税を公約に掲げる異例の展開に。年5兆円の税収減がもたらす財政リスクと各党の主張を整理して解説します。
衆院選迫り金利上昇圧力、高市積極財政の思惑
2月8日の衆院選を前に、高市首相の積極財政路線と円安容認発言が債券市場に影響を与え、長期金利に上昇圧力がかかっている背景と今後の展望を解説します。
衆院選で減税競争が過熱、市場の警鐘は届くか
2026年衆院選を前に与野党が減税を競い合う中、長期金利は27年ぶり高水準に。財政拡張への市場の警鐘と、トラス・ショックの教訓から日本の選択を考えます。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。