EVバス国内シェアでBYDが首位、日本市場の現状
はじめに
脱炭素化の取り組みの一環として、日本国内で路線バスなどへのEVバス(電気バス)導入が加速しています。都道府県のバス事業者でつくる日本バス協会は、2030年までに全国でEVバスを1万台導入する目標を掲げています。
この市場で存在感を示しているのが中国のBYD(比亜迪)です。日本国内のEVバス分野でシェア約6割を獲得し、首位に立っています。本記事では、日本のEVバス市場の現状と、国産メーカーの動向について解説します。
EVバスとは
路線バスとの相性の良さ
EVバスとは、電池やモーターで動くバスを指します。運行ルートや時間が決まっており、充電がしやすいことから、路線バスとの相性が良いとされています。
営業所に戻った際に充電できるため、航続距離の問題が比較的小さく、また市街地を走行するため、排気ガスを出さないEVの環境面でのメリットを最大限に発揮できます。
導入のメリット
EVバスの導入には複数のメリットがあります。まず環境面では、走行時にCO2を排出しないため、脱炭素社会の実現に貢献します。
また運用面でも利点があります。ディーゼルバスよりも音や揺れが少なく、乗客からの評価も高いとされています。構造がシンプルなため保守が容易になり、燃料代も低コストになる傾向があります。
日本市場におけるBYDの躍進
国内シェア約6割を獲得
中国のBYDは、日本国内のEVバス市場で圧倒的な存在感を示しています。2025年度末時点での日本市場におけるBYD製EVバスの累計導入台数は503台に達し、国内EVバス分野での市場シェアは約6割を占めています。
2025年は、BYD製EVバスの日本導入から10周年の節目の年となりました。これを記念して、BYDジャパンの商用車部門は2025年10月開催のJapan Mobility Show 2025に初出展しました。
グローバルでも圧倒的な実績
BYDは日本だけでなく、世界市場でも強い存在感を示しています。2025年のBYD製電気バスの輸出台数は4,234台(前年比18.2%増)に達し、市場シェア24%を記録しました。
1年間に4,200台を超えるEVバスを輸出した企業はBYDのみであり、輸出台数・市場シェアの分野でBYDは3年連続で世界No.1となっています。
多様化する導入事例
近年では、路線バスやコミュニティ・バスでの利用に加え、大学の送迎用といった自家用用途にも需要が広がっています。
2025年の主な国内導入事例としては、静岡県では遠州鉄道が県内初となるBYD製大型EVバス「K8」を導入。東京都では関東バスが武蔵野市のコミュニティ・バス「ムーバス30周年記念事業」として小型路線バス規格の「J6」を導入しました。大阪府では龍谷大学向けに大阪ガスオートサービスが大学送迎用として「K8」を導入しています。
中国でのEVバス普及の先例
深圳市:世界初の完全電動化都市
中国の深圳市は、公共の路線バスの完全な電動化を実現した世界最初の都市です。深圳市が保有する16,000台のバスがすべてEVに切り替わったことで、騒音が減り、CO2排出量が約48%減となりました。
深圳市の最大規模のバス会社である深圳巴士集団は、電気バスの年間経費を約98,000ドル(約1,039万円)と見積もっており、ディーゼルバスの年間経費11万2,000ドル(約1,187万円)と比較してコスト削減を実現しています。
充電インフラの整備
中国国内で利用できる公共用のEV充電器数は、2024年時点で350万台に達しています。中国はEV充電器の設置台数で世界トップを誇り、世界全体の普通充電器の55%、急速充電器の80%を占めています。
深圳市では「超充之城」計画のもと、超急速充電サービス網が市内全域に広がっており、大型商業複合施設やバス停、工業団地などに充電ステーションが設置されています。
日本のEVバス導入目標
2030年に1万台
日本バス協会は、2030年までに累計1万台のEVバスを業界内で導入する目標を明らかにしました。同協会の清水一郎会長は「23年はEVバス元年になる」とその意義を強調しています。
政府が目指す2050年までのカーボンニュートラル実現のため、バス業界としても貢献するべく、国の補助金の大幅増額を前提に目標達成に取り組む方針です。
現状とのギャップ
しかし、現状では目標達成までに大きな課題があります。EVバスの導入数は2021年度末時点で、約24万台の全国のバス保有台数のうちわずか149台であり、普及率は0.1%以下にとどまっています。
2023年(11月時点)には49事例と前年までと比較して大幅に増加しました。これは国土交通省による助成率が車両本体価格の1/2から2/3に増加したことや、EVバス導入支援の助成を行う自治体が増えたことが要因と考えられます。
国土交通省ではEVバス導入支援の予算として2023年度に100億円、約500台分を見込んでいます。
国産メーカーの動向
いすゞと日野の協業
いすゞ自動車と日野自動車は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてバスの電動化の取り組みを強化しています。両社は合弁会社であるジェイ・バスにて、BEV(バッテリー電気自動車)フルフラット路線バスを2024年度より生産開始しました。
EVバスの開発はいすゞが主導し、従来のディーゼル車よりもレイアウトの自由度が高いEV化によって車内のフルフラットエリアを大幅に拡大しています。
また、いすゞ、日野、トヨタは、BEVフルフラット路線バスをベースとした次世代のFCEV(燃料電池電気自動車)路線バスの企画・開発に向けた検討を開始しました。BEVとFCEVの部品の共通化によるコストの大幅低減を目指しています。
三菱ふそうの取り組み
三菱ふそうトラック・バスはEVトラックの試験・開発設備を増強しています。開発拠点の喜連川研究所では、設備をディーゼルエンジン車からEVなど電動車向けに徐々に重心を移しています。
台湾の鴻海精密工業と三菱ふそうは、ZEV(ゼロエミッション車)バスの戦略的協業を検討する基本合意を結びました。鴻海のEVバスをベースに三菱ふそう仕様に開発し、富山県の拠点でバス生産を検討しています。
EVバス導入の課題
車両価格以外のハードル
バス事業者が電動車導入で課題に感じているのは、車両価格だけではありません。電動車に対応した故障診断スキャンツールや整備機器の導入、故障時の対応などが課題になっています。
FCバスの場合はFCV特有のメンテナンスが発生し、水素タンクのレイアウトによっては高所作業も伴います。また、水素ステーションへの往復や、充電で稼働時間が短くなることも運用でハードルになっています。
国産メーカーが少ない理由
EVバスの国産メーカーが少ない理由として、新しい製品の市場投入に慎重になる傾向や、バス事業者の反応が読めず投資効果が計算しづらい点が挙げられます。
しかし、BEVとFCEVの部品の共通化などによりコストダウンの目処が立ったことは、国産メーカーにとって追い風となっています。
注意点・展望
BYDジャパンの今後の展開
BYDジャパンは、2026年以降、日本市場へのEVトラックの導入を正式に決定しました。今後はEVバスとEVトラックの両輪で、商用EV車両の販売を強化していく方針です。
競争激化の見通し
2026年以降は国内メーカー各社も開発を進めていることから、国内の競争がますます激化していくと予想されています。いすゞ・日野連合や三菱ふそうの新型車両投入により、BYD一強の構図が変わる可能性もあります。
日本のバス業界にとって、脱炭素化への対応と競争力の維持・向上の両立が求められる局面を迎えています。
まとめ
日本国内のEVバス市場では、中国BYDがシェア約6割を獲得し首位に立っています。日本バス協会が掲げる2030年1万台導入の目標に向けて、国の補助金拡充とともに導入が加速しています。
国産メーカーもいすゞ・日野連合によるBEVバスの生産開始や、三菱ふそうの協業など、巻き返しに向けた動きを見せています。脱炭素社会の実現に向けて、路線バスの電動化は今後さらに進展することが期待されます。
参考資料:
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