食料品の消費税ゼロに経済学者88%が反対する理由
はじめに
2026年の衆院選を前に、「食料品の消費税率をゼロにする」という政策が各党の公約として注目を集めています。物価高に苦しむ家計を支援する目的で掲げられたこの政策ですが、経済学者を対象とした調査では88%が「日本経済にマイナス面が大きい」と回答しました。
なぜ専門家の大半が食料品消費税ゼロに反対するのでしょうか。本記事では、財政・社会保障・物価への影響を多角的に分析し、この政策が抱える構造的な問題点を解説します。
食料品消費税ゼロの現状と各党の立場
選挙の争点として浮上
食料品の消費税率をゼロにする議論は、2025年の参院選から本格化しました。当時は石破政権が給付金による物価高対策を掲げたのに対し、野党各党が消費税の減税や廃止を主張しました。しかし選挙後、各党は消費税減税を優先課題として掲げることをやめた経緯があります。
2026年に入り、高市早苗首相が「消費税減税の検討を加速させる」と表明したことで、再び議論が活発化しました。自民党と日本維新の会の連立政権合意では「飲食料品について2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化を検討する」と明記されています。
各党のスタンス
各党の立場は以下の通りです。自民党・維新の与党連合は2年間の時限的な食料品消費税ゼロを検討しています。中道改革連合(立憲+公明の新党)は恒久的な食料品消費税ゼロを主張し、財源として政府系投資ファンドの活用を提案しています。国民民主党は食料品に限定した減税ではなく、一律5%への引き下げを掲げています。共産党やれいわ新選組はさらに踏み込んだ消費税の廃止を訴えています。
経済学者が反対する3つの理由
約5兆円の税収減と財政リスク
食料品の消費税率をゼロにした場合、年間約5兆円の税収減が見込まれます。2024年度の消費税収は過去最高の25兆円に達し、国の一般会計税収の3割超を占める最大の税目です。この約2割に相当する財源が失われることの影響は甚大です。
第一生命経済研究所の熊野英生氏は、消費税減税が「悪しき先例」となり、社会保障財源を守るという財政規律が失われる危険性を指摘しています。さらに、海外格付け機関による日本国債の格下げリスクも懸念材料として挙げています。
野村総合研究所の木内登英氏も、自民党が食料品の消費税率ゼロ化を公約に掲げること自体が財政の信頼性を大きく損ね、円安や長期金利の上昇がさらに進む可能性があると警告しています。
社会保障の持続性への脅威
消費税は年金・医療・介護・子育て支援の4分野に充当される社会保障の重要な財源です。日本は2040年代に高齢化率が35%を超える見通しで、社会保障費はさらに膨張することが確実視されています。
この状況で年間5兆円の財源を失うことは、社会保障制度の持続性を根本から揺るがします。将来的な消費税率の引き上げが不可避とする専門家の見解は根強く、減税は問題の先送りに過ぎないとの批判があります。
日本経済研究センターが実施した別の調査でも、一時的な消費税減税の実施が適切かという問いに対し、「全くそう思わない」「そう思わない」が計85%を占めました。経済専門家の間では、減税に対する否定的な見方が圧倒的多数を占めています。
インフレ加速と経済効果の限定性
日本総研の石川智久氏は、人手不足が深刻化しインフレ傾向にある現在の日本経済において、過度な減税は景気を過熱させインフレを加速させる恐れがあると指摘しています。物価高対策であるはずの消費減税が、逆にインフレを進行させてしまうという皮肉な結果を招きかねません。
大和総研の試算によると、飲食料品の消費税率を2年間ゼロとした場合の経済効果は、個人消費の喚起効果が0.5兆円、GDP押し上げ効果は0.3兆円程度にとどまります。年間4.8兆円という巨額の財政コストに対して、経済効果は極めて限定的です。
野村総合研究所の分析でも、実質GDP押し上げ効果は年間+0.22%と大きくなく、社会保障財源が損なわれる代償に比べて恩恵は小さいとされています。
注意点・展望
低所得者対策としての非効率性
食料品の消費税ゼロ化は消費税の逆進性を緩和する一定の妥当性はあります。しかし、高額所得者の食料品購入にもゼロ税率が適用されるため、低所得者対策としての効率性は低いとの指摘があります。木内氏は、低所得者に絞った給付金の方がより効果的な対策だと提言しています。
大和総研の試算では、世帯あたり年間約8.8万円の負担軽減が見込まれますが、月平均では7,000〜9,000円程度です。低〜中所得世帯ほど家計全体に占める負担軽減の割合は大きくなるものの、根本的な物価高対策としては力不足です。
今後の見通し
選挙後の政策実現性には不透明感が残ります。2025年の参院選でも消費税減税は争点となりましたが、選挙後には各党とも優先課題から外した前例があります。仮に実施された場合、標準税率を12%に引き上げてネットの消費税収を維持するという選択肢も議論されていますが、国民の理解を得ることは容易ではありません。
まとめ
食料品の消費税率ゼロ政策は、選挙公約としては有権者の支持を集めやすい施策です。しかし、経済学者の88%が反対するという事実は、この政策の構造的な問題の深刻さを物語っています。
年間約5兆円の税収減、社会保障の持続性への脅威、インフレ加速のリスク、そして低所得者対策としての非効率性。これらの課題を踏まえると、物価高対策としてはより的を絞った給付金制度の充実や、根本原因である円安への対応が優先されるべきだと考えられます。有権者としては、短期的な恩恵だけでなく中長期的な財政・社会保障への影響も含めて判断することが重要です。
参考資料:
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