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by nicoxz

鴻海と三菱ふそうが合弁会社設立、外資主導の製造業再建が加速

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はじめに

2026年1月22日、台湾の電子機器受託製造大手・鴻海(ホンハイ)精密工業と三菱ふそうトラック・バスが、EVバス事業を手掛ける合弁会社の設立を発表しました。この動きは、かつてシャープを再建した鴻海が、今度は日本の基幹産業である自動車分野に本格参入することを意味します。

日本の製造業において、外資が「雇用の受け皿」となる事例が電機業界から自動車業界へと広がりつつあります。本記事では、鴻海と三菱ふそうの合弁会社設立の詳細と、外資主導による日本のものづくり再建の現状と課題について解説します。

鴻海・三菱ふそう合弁会社の全容

出資構造と経営体制

新会社は鴻海と三菱ふそうが50%ずつ出資する対等な合弁会社として、2026年後半に設立される予定です。本社は三菱ふそうが拠点を構える神奈川県川崎市に置かれます。

経営体制については、会長に鴻海でEV事業を統括する関潤CSO(最高戦略責任者)、CEOには三菱ふそう側から高羅克人バス事業本部長が就任することが検討されています。関氏は日産自動車の副COOやニデック(日本電産)の社長を歴任した人物であり、日本の自動車業界を熟知している点が強みです。

製造拠点と生産計画

車両の製造は、富山市にある三菱ふそうの子会社「三菱ふそうバス製造」の工場で行われます。これは鴻海にとって初の日本国内における製造拠点となります。

生産するのは、鴻海グループが開発したEVバス「モデルT」とEVマイクロバス「モデルU」をベースとした車両です。まずは国内販売を目指し、2027年中の大型路線バス受注開始を計画しています。

協業の背景と狙い

三菱ふそうにとって、バス事業は国内外で公共交通としての需要が底堅い一方、電動化や自動運転に向けた開発コストが大きな負担となっていました。鴻海との協業により、次世代バスの開発コストを大幅に削減できると見込んでいます。

三菱ふそうのカール・デッペン社長は記者会見で「より強力で競争力の高い、未来に対応できるバステクノロジーを開発する」と述べ、「(EVバスを)市場に早く出す必要があった」と協業の理由を説明しました。

鴻海のEV戦略「CDMS」モデルとは

受託設計・製造サービスの展開

鴻海は電子機器の受託製造で培ったノウハウをEV分野に応用し、「CDMS(Contracted Design & Manufacturing Service:受託設計・製造サービス)」というビジネスモデルを展開しています。

このモデルでは、鴻海がEVの設計から製造までを一貫して請け負います。自動車メーカーだけでなく、自動車業界以外からの新規参入企業にも、レファレンスモデル(参照設計)を提供することで、EV事業への参入障壁を下げる役割を果たしています。

「3+3」戦略と事業拡大

鴻海は2019年から「3+3」戦略を推進しています。「EV」「デジタルヘルス」「ロボティクス」の3つの注力領域に、「AI」「半導体」「次世代通信技術」の3つの技術を投入する成長戦略です。

現在、鴻海のEVラインアップは9車種にまで拡大しています。SUVタイプの「モデルC」は台湾で販売中で、2025年後半には米国市場にも投入予定です。B2B(企業間取引)に徹する姿勢を明確にしており、「われわれは全くB2Cをやる意識はなく、あくまでB2Bに徹します」と関氏は述べています。

日本市場への本格展開

今回の合弁会社設立に加え、鴻海は日本市場で複数の展開を進めています。三菱自動車とはEVのOEM供給に関する覚書を締結し、オセアニア地域で2026年半ばから販売を開始する計画です。また、B/Cセグメントの「モデルA」は2027年前半に日本で販売予定となっています。

シャープ再建の教訓と自動車産業への波及

電機業界における外資再建の先例

鴻海による日本製造業の再建は、2016年のシャープ買収が最初の大きな事例でした。日本の大手電機メーカーが外資系企業に買収されるのは史上初のことで、総額約3,888億円の投資が行われました。

シャープは鴻海傘下に入った後、徹底的なコストカットにより1年3カ月後には収支がリーマン・ショック以前の状態に回復しました。当時社長に就任した戴正呉氏は、社長決裁が必要となる投資額を300万円まで引き下げ、投資の無駄を徹底的に排除しました。

自動車産業への展開が持つ意味

自動車産業は日本のGDPの約7%、就業人口559万人を支える基幹産業です。製造品出荷額は71兆円を超え、全製造業の19.2%を占めています。

この巨大産業に外資が「雇用の受け皿」として参入することは、日本の産業構造に大きな変化をもたらす可能性があります。鴻海の関氏が「我々は黒子の天才だ。日本で生産する以上できるだけ日本で現地化する」と述べているように、雇用維持への配慮も示されています。

日本のEVシフトと今後の展望

遅れる国内EV普及

日本国内のEV普及率は、2025年6月時点で新車販売シェアの約2%にとどまっています。充電インフラの整備不足や車両価格の高さが課題とされており、政府は2030年までに充電インフラを30万口整備する方針を掲げています。

鴻海と三菱ふそうの合弁会社が生産するEVバスは、公共交通機関から電動化を進める起爆剤となる可能性があります。バスは走行ルートが決まっており、充電計画が立てやすいという特性があるためです。

産業構造の変化への対応

EVシフトは日本の自動車産業全体に構造変化を迫っています。エンジンやトランスミッションに特化してきた部品メーカーは、バッテリーやソフトウェアといった新たな技術領域への対応を求められています。

帝国データバンクによると、国内カーメーカー10社のサプライチェーンを構成する企業は約6万8,000社に上ります。これらの企業がEV時代にどう適応するかが、日本の製造業全体の競争力を左右することになります。

まとめ

鴻海と三菱ふそうの合弁会社設立は、日本の自動車産業における外資主導の再建事例として注目されます。シャープで実績を上げた鴻海が、今度は自動車分野で「黒子」として日本のものづくりを支える構図が生まれつつあります。

EVバスの国内生産が始まれば、遅れていた日本のEV普及に弾みがつく可能性があります。同時に、外資の力を借りながらも技術力と雇用をいかに維持するかが、今後の日本製造業の課題となるでしょう。自動車という基幹産業の変革期において、鴻海と三菱ふそうの協業は重要な試金石となります。

参考資料:

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