JERA・クボタが中東駐在員に退避指示、企業の対応
はじめに
2026年2月28日に始まった米国とイスラエルによるイラン攻撃を受け、日本企業が中東地域の駐在員に対する退避措置を急いでいます。JERAやクボタをはじめとする複数の企業が退避指示を出し、安全確保を最優先に対応を進めています。
中東は産油国が集中する地域であり、エネルギー企業を中心に多くの日本人駐在員が勤務しています。外務省によると、中東地域の日本企業の拠点は約1,000カ所、在留邦人は1万人を超えます。イランの周辺国への報復攻撃が続く中、企業はどのような判断を迫られているのでしょうか。
JERAの退避対応
UAE子会社を中心に17人が対象
JERAは3月2日、米国とイスラエルによるイラン攻撃を受け、中東地域の従業員と家族に退避指示を出したことを明らかにしました。対象となるのは、アラブ首長国連邦(UAE)の子会社に勤務する17人のほか、サウジアラビアやカタールの発電会社に出向している数名の社員です。
JERAは東京電力と中部電力の合弁会社で、国内最大の発電事業者です。中東ではUAEを拠点に発電事業を展開しており、現地の電力インフラに深く関わっています。退避によって現地事業への影響が懸念されますが、従業員の安全を最優先とした判断です。
エネルギー企業特有のリスク
日本の原油輸入における中東依存度は約94%に達しています。2025年の国別シェアではUAEが43.3%と最大で、2年連続でトップとなりました。エネルギー関連企業は中東に多くの駐在員を派遣しており、有事の際のリスクが特に高い業種です。
石油・ガス開発や発電事業は、プラントの運転・保守に専門人材の常駐が必要です。駐在員の退避は事業の一時停止や縮小を意味する場合があり、経営上の判断も複雑になります。
クボタほか日本企業の対応
クボタの退避検討
クボタも中東駐在員や家族の退避指示・帰国検討を進めています。クボタは農業機械や建設機械の製造販売で中東市場に展開しており、サウジアラビアやUAEを中心に営業拠点を構えています。
企業ごとに異なる対応
中東に進出する日本企業は約443社とされ、その対応は情勢の変化に応じて異なります。イランに直接進出している企業は限られますが、UAE・サウジアラビア・カタールなど周辺国に拠点を持つ企業は広範に影響を受けています。
現時点でUAEやサウジアラビアの治安情勢が大きく悪化しているわけではありませんが、イランが周辺国への報復攻撃を行っていることから、予防的な退避措置をとる企業が増えています。一方、情報収集の強化にとどめている企業もあり、判断が分かれている状況です。
中東有事が日本経済に与える影響
エネルギー供給への懸念
日本は原油の約94%を中東地域から輸入しており、ペルシャ湾岸の不安定化はエネルギー安全保障に直結します。イランが報復攻撃をホルムズ海峡周辺に拡大すれば、原油の海上輸送ルートが脅かされる事態も想定されます。
すでに原油先物市場は不安定な値動きを見せており、日本のガソリン価格や電気料金への波及が懸念されています。
サプライチェーンへの影響
エネルギー分野だけでなく、建設、インフラ、農業機械など幅広い業種の日本企業が中東で事業を展開しています。駐在員の退避が長期化すれば、現地プロジェクトの遅延や取引先との関係悪化につながる可能性があります。
特にサウジアラビアのビジョン2030に関連した大型インフラプロジェクトには、多くの日本企業が参画しています。情勢が長期にわたって不安定な場合、ビジネス機会の喪失リスクも無視できません。
注意点・展望
外務省は中東地域の危険情報を引き上げており、イラン全土にはレベル4(退避勧告)、周辺の湾岸6カ国にもレベル1(十分注意)を発出しています。企業は外務省の情報を基に判断していますが、情勢は刻々と変化しており、迅速な意思決定が求められます。
今後の焦点は、軍事衝突がどこまで拡大するかです。イランの報復攻撃が周辺国の都市部や民間インフラに及べば、退避対象はさらに拡大します。一方、外交的な解決が進めば、段階的な駐在員の復帰も見込まれます。
各企業はBCP(事業継続計画)に基づく対応を進めていますが、中東有事を想定した十分な備えがあったかどうかは企業によって差があります。今回の事態は、海外駐在員の安全管理体制を見直す契機となるでしょう。
まとめ
米国・イスラエルのイラン攻撃を受け、JERAやクボタをはじめとする日本企業が中東駐在員の退避に動いています。約1,000拠点、1万人超の在留邦人を抱える中東地域での有事は、エネルギー供給やサプライチェーンを通じて日本経済全体に影響を及ぼす可能性があります。
企業は従業員の安全確保を第一に、事業継続とのバランスを取る難しい判断を迫られています。中東情勢の推移を注視しつつ、自社のリスク管理体制を再点検することが重要です。
参考資料:
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