ロピア社長交代、大久保恒夫氏が描く食の巨人への道筋
はじめに
食品スーパー「ロピア」を展開するOICグループが、経営体制の大きな転換に踏み切りました。2026年3月1日付で、西友前社長の大久保恒夫氏(69)が新社長に就任します。大久保氏は成城石井やドラッグイレブン、セブン&アイ・フードシステムズなど複数の小売企業を再建してきた「小売再生の請負人」として知られる人物です。
ロピアはここ数年、驚異的なスピードで成長を続けており、2025年2月期のグループ売上高は5,213億円に達しています。2031年までにグループ売上高2兆円という壮大な目標を掲げる中、なぜ今、外部からプロ経営者を招くのか。その狙いと今後の展望を解説します。
ロピアの急成長と現在地
精肉店から売上5,000億円超へ
ロピアの前身は1971年創業の精肉店「肉の宝屋」です。2013年に高木勇輔氏が二代目社長に就任した時点で、売上高は501億円、店舗数は26店舗でした。そこからわずか10年余りで売上高は10倍以上に膨らみ、2026年2月期の売上高は前期比26%増の6,555億円を見込んでいます。
店舗数も急拡大しており、2026年1月時点で145店舗と10年前の約5倍に達しました。1店舗あたりの売上高は年間約40億円と、一般的なスーパーの2倍以上という高い生産性を誇ります。
「個店主義」という独自の経営スタイル
ロピアの成長を支えているのが「個店主義」と呼ばれる現場主導の経営手法です。精肉・鮮魚・青果・食品・惣菜の各部門のチーフが自ら買い付けを行い、販売価格を決定します。本部が一律に商品構成を決めるのではなく、各店舗が地域の需要に合わせた品揃えを展開できる仕組みです。
この事業部制により、現場の判断スピードが速く、地域に密着した商品展開が可能になっています。大量仕入れによるコスト削減と、現場の裁量による柔軟な価格設定の両立が、ロピアの競争力の源泉です。
大久保恒夫氏の経歴と実績
小売再生の請負人
大久保恒夫氏は1956年生まれ、愛知県出身の実業家です。1979年に早稲田大学法学部を卒業後、イトーヨーカ堂に入社しました。1990年にリテイルサイエンスを設立し、経営コンサルタントとして活動を開始します。
その後の実績は目覚ましいものがあります。ファーストリテイリング(ユニクロ)や良品計画の経営改革に携わったほか、2003年には経営危機に陥っていたドラッグイレブンの企業再生を手掛け、業績を急回復させました。2007年には成城石井の経営改革を実行し、業績を飛躍的に向上させています。
西友での改革と成果
大久保氏の直近の大きな実績が、西友の経営改革です。2021年、米投資ファンドKKRと楽天が共同出資する新体制のもとで社長兼CEOに就任しました。ウォルマート時代のEDLP(毎日低価格)戦略で苦戦していた西友に対し、大久保氏は「トレードオン」という経営方針を打ち出します。
具体的には、低価格を維持しながらも商品の質を高める取り組みを推進しました。パートやアルバイトの意見を「消費者の代表」として商品開発に反映させたり、全国一律だった品揃えを見直して地域ごとのローカル商品を強化したりと、現場に根ざした改革を進めました。
その結果、西友は中期経営計画の目標を3年で達成し、2023年12月期の連結営業利益は315億円と業界トップレベルに到達しています。ただし、値引きを控えて粗利を確保する手法に対して「決算数字のお化粧ではないか」という批判的な見方もあることは付記しておきます。
OICグループのM&A戦略と新社長の役割
「食のSPA」を目指すグループ戦略
OICグループは「食のSPA」を掲げ、食品製造から貿易・卸、小売り、外食まであらゆる業種を集約する戦略を進めています。自社で供給網を持つことで、独自商品の開発や業種間のシナジーを生み出す構想です。
近年のM&Aは加速しており、主な案件だけでも以下が挙げられます。
- スーパーバリューの完全子会社化(2025年10月、約35億円):既存店舗をロピアモデルに改装
- 漬物製造・島田食品の買収(2025年9月):惣菜の安定供給体制を構築
- 沖縄マンゴー農園の買収(2025年12月):青果の生産領域に進出
- 米国ラーメン店の買収(2025年10月):海外外食事業への参入
グループ会社数は42社に達しており、2031年度には100社体制を目指しています。
大久保氏に求められる役割
これほど急速にM&Aを進めるOICグループにとって、買収した企業の統合と収益化が最大の課題です。大久保氏はまさにこの課題を解決できる人材といえます。
複数の小売企業で経営改革を成功させてきた実績は、グループ内の多様な事業を束ねて収益性を高める上で大きな武器になります。特に、西友やスーパーバリューなど既存の大型スーパーの改革ノウハウは、ロピアの出店戦略と直結する知見です。
また、イトーヨーカ堂閉店店舗の承継による北海道・東北への進出、アークランズとの業務提携によるホームセンター内への出店など、新しい出店形態が増える中で、それぞれの地域・形態に合わせた最適な運営手法を確立することも重要な任務になるでしょう。
注意点・展望
急成長企業のリスク
ロピアの成長スピードは驚異的ですが、それだけにリスクも存在します。M&Aの急拡大に伴い、組織の統合やガバナンスの維持が課題になる可能性があります。グループ会社を100社にまで増やす計画は野心的ですが、各社の経営品質を保つには強力なマネジメント体制が不可欠です。
また、現在の「個店主義」は店舗数が少ない段階では機能しやすいものの、145店舗、さらにその先の規模になった時に同じ品質を維持できるかは未知数です。大久保氏が持つ大規模チェーンの運営ノウハウが、この課題の解決に役立つことが期待されます。
2兆円目標への道筋
2031年までに売上高2兆円を達成するには、現在の約6,500億円から3倍以上の成長が必要です。国内の食品スーパー市場は成熟しており、オーガニックな成長だけでは到達が難しい数字です。台湾など海外市場への展開や、食品製造・外食など川上・川下への垂直統合をどこまで加速できるかが鍵を握ります。
まとめ
ロピアの社長交代は、急成長する食品スーパーが次の段階に進むための戦略的な人事です。大久保恒夫氏は西友や成城石井など複数の小売企業で改革実績を持つプロ経営者であり、OICグループが進めるM&A戦略の効果を最大化する役割が期待されています。
売上高2兆円・グループ100社という壮大な目標の実現には、買収企業の統合力と現場の経営品質の維持が不可欠です。「小売再生の請負人」がロピアの個店主義とどう融合し、新たな成長モデルを築くのか。日本の食品小売業界にとって注目すべき動きです。
参考資料:
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