レゾナックCFO染宮秀樹氏が主導する経営改革の全貌
はじめに
日本企業においてCFO(最高財務責任者)の存在感が急速に高まっています。かつては「金庫番」として経理・財務を統括するのが主な役割でしたが、現在のCFOは企業価値向上の番人として、事業の選択と集中、M&A戦略、資本政策までを担う経営の中枢へと変貌しています。
その象徴的な存在が、レゾナック・ホールディングスのCFO染宮秀樹氏です。ソニーでCFO付チーフファイナンシャルストラテジストを務めた経験を持つ同氏は、伝統的な日本企業の固定観念を打ち破り、「2万6000人のスタートアップ」という大胆なビジョンを掲げて経営改革を推進しています。本記事では、染宮氏が主導するレゾナックの企業変革と、日本企業におけるCFOの役割変化について詳しく解説します。
染宮秀樹CFOの経歴と特徴
金融のプロフェッショナルとしてのキャリア
染宮秀樹氏は、1990年に野村総合研究所の企業財務調査室に入社し、金融アナリストとしてのキャリアをスタートさせました。その後、野村證券金融研究所、メリルリンチ日本証券を経て、2009年にはJPモルガン証券でテクノロジー・メディア・テレコム部門の責任者を務めています。
この間、数多くの企業分析と投資判断に関わり、企業価値を見極める目を養いました。証券アナリストとして培った「厳しい視点」が、後の経営改革において大きな武器となっています。
ソニーでの経験が転機に
2015年、染宮氏は大きな転機を迎えます。ソニー(現ソニーグループ)に入社し、副社長CFO付チーフファイナンシャルストラテジストに就任したのです。ソニーは当時、平井一夫社長(後にCEO)のもとで大胆な構造改革を進めていた時期でした。
この時期に染宮氏は、大企業における経営改革の実務を間近で学びました。不採算事業からの撤退、成長分野への資源集中、そして投資家との対話の重要性を体得したのです。2016年にはソニーセミコンダクタソリューションズでの経験も積み、半導体事業に対する深い知見を得ています。
レゾナックへの参画
2021年、染宮氏は昭和電工(当時)にグループCFO準備室長として入社します。これは、昭和電工と日立化成の経営統合を見据えた戦略的な人事でした。2022年に取締役常務執行役員CFOに就任し、2023年の新会社レゾナック発足とともに現職に至っています。
レゾナック誕生の背景と課題
1兆円規模の大型M&A
レゾナックは、昭和電工による日立化成の買収を経て誕生しました。2019年12月に発表されたこの買収は、TOBを含め約9,600億円という巨額のものでした。日立化成は半導体材料で世界トップクラスの技術を持つ企業であり、昭和電工にとっては成長戦略の要となる買収でした。
2023年1月に両社は統合し、売上高約1兆3,000億円の新会社「レゾナック」が誕生しました。特に半導体・電子材料分野の売上が約4,000億円を占め、後工程材料においてグローバルトップ企業となったのです。
統合後の課題
しかし、統合後のレゾナックは多くの課題を抱えていました。買収に伴う巨額の有利子負債、異なる企業文化を持つ2社の融合、そして「戸惑う6割の社員」の存在です。さらに2023年度には半導体市況の悪化により営業赤字に転落するなど、経営環境は厳しいものでした。
こうした状況下で、染宮CFOは単なる財務管理者ではなく、企業変革のリーダーとしての役割を担うことになったのです。
染宮CFOが推進する経営改革
事業ポートフォリオの大胆な見直し
染宮CFOが最も注力しているのが、事業ポートフォリオの最適化です。レゾナックでは「戦略適合性」「ベストオーナー」「採算性・資本効率」という3つの視点で全事業を評価し、ポートフォリオの運営方針を明確化しています。
この方針のもと、旧昭和電工と旧日立化成が抱えていた鉛蓄電池やアルミ缶といった不採算事業を次々と売却しました。一方で、半導体・電子材料事業には積極的な投資を継続し、「スペシャリティケミカル企業」への変革を推進しています。
半導体材料への集中投資
レゾナックが特に注力しているのが、半導体の「後工程」材料です。半導体の微細化が物理的限界に近づく中、複数のチップを高密度に積層するパッケージング技術の重要性が高まっています。
レゾナックは高純度ガス、CMPスラリー、銅張積層板、感光性フィルムなど、後工程に不可欠な材料で世界トップクラスのシェアを持っています。さらに、次世代パワー半導体用のSiCエピタキシャルウエハーでも高い成長を続けています。
染宮CFOは「後工程の市場は爆発的に伸びる」と語り、この分野への集中投資の勝算を示しています。
「染ラボ」による人材育成
経営改革を成功させるためには、財務や戦略を理解する人材の育成が欠かせません。染宮CFOは「染ラボ」と名付けた社内MBAプログラムを開始しました。
このプログラムでは、染宮CFO自らが講師となり、自身の経験を交えた実践的なケーススタディと大学教授による講義を組み合わせています。最終的には参加者がグループで戦略提案を策定し、経営陣にプレゼンテーションを行います。
このような取り組みを通じて、財務的視点を持った経営人材を社内で育成し、組織全体の変革力を高めているのです。
日本企業におけるCFOの役割変化
「金庫番」から「変革の推進者」へ
染宮CFOの取り組みは、日本企業全体で起きているCFOの役割変化を象徴しています。KPMGジャパンの「CFOサーベイ2024」によると、CFOに最も期待される役割は「事業の選択と集中」で、回答者の60%がこれを挙げています。
かつてのCFOは経理・財務部門を統括する「金庫番」でしたが、現在は企業価値向上のために果断な意思決定を推進する「変革の推進者」へと進化しています。全社視点でのリソース配分最適化、不採算事業への切り込み、成長分野への投資判断など、経営の中枢を担う存在となっています。
管掌範囲の拡大
CFOの管掌範囲も大きく広がっています。伝統的な経理財務に加え、「経営戦略」「経営企画」「リスクマネジメント」「サステナビリティ推進」を担うCFOが増えています。さらに「人事」「法務」「総務」を管掌するCFOも30%を超え、コーポレート部門全体をリードする存在となっています。
全社変革プロジェクトのオーナーとして
アクセンチュアの調査によると、成果を生み出すCFOは管理・間接部門だけでなく、事業現場や顧客対応部門にまで踏み込んで変革を推進しています。2つ以上の全社変革プロジェクトを推進するCFOの割合は、今後1年間で34%に達する見込みです。これは過去2年間の11%から大幅な増加であり、CFOが真の「全社変革」を主導する時代が到来しています。
注意点・今後の展望
日本企業に残る課題
一方で、日本企業にはまだ課題が残っています。KPMGの調査では、資本収益性が低い事業の存在を認識しながらも「構造改革中で撤退に至っていない」「基準やプロセスが設けられていない」という回答が目立ちます。事業ポートフォリオの新陳代謝が進みにくい日本企業の特徴が現れています。
また「開示はできているが実行力が乏しい」という傾向も指摘されており、実行力が乏しい企業ほどCFO組織・機能が弱い傾向があります。
レゾナックの今後
レゾナックは財務健全化を着実に進めており、半導体・電子材料分野を中心に高い利益率を目指す成長戦略を掲げています。日米の材料・装置メーカー10社によるコンソーシアム「US-JOINT」をシリコンバレーに設立するなど、グローバル展開も加速しています。
染宮CFOが掲げる「2万6000人のスタートアップ」というビジョンが実現すれば、JTC(Japanese Traditional Company)の固定概念を覆す先駆的事例となるでしょう。
まとめ
レゾナックのCFO染宮秀樹氏は、ソニーでの経験を活かし、伝統的な日本企業の変革を主導しています。金庫番としての役割を超え、事業ポートフォリオの最適化、半導体材料への集中投資、人材育成プログラムの展開など、多角的なアプローチで企業価値向上に取り組んでいます。
日本企業全体でCFOの役割は大きく変化しており、「変革の推進者」「企業価値向上の番人」としての期待が高まっています。染宮CFOの挑戦は、日本の企業経営のあり方に一石を投じる事例として、今後も注目されるでしょう。
参考資料:
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