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by nicoxz

サイゼリヤが値上げせず最高益を更新し続ける理由

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はじめに

大手ファミリーレストランが相次いで値上げに踏み切るなか、サイゼリヤは国内主要チェーンで唯一、値上げをしていません。それにもかかわらず、2026年8月期は3年連続で過去最高益を更新する見通しです。

原材料費や人件費が上昇し続ける「コストプッシュ型インフレ」の時代に、なぜサイゼリヤは値上げなしで利益を伸ばせるのでしょうか。その背景には「アイドルタイム」の活用やオペレーション改革といった、緻密な経営戦略があります。本記事では、サイゼリヤの好業績を支える仕組みを多角的に分析します。

驚異的な業績の実態

3年連続最高益の中身

サイゼリヤの2026年8月期の業績見通しは、売上高2,763億円(前期比7.6%増)、営業利益190億円(同22.6%増)、純利益124億円(同11.1%増)です。いずれも過去最高を更新する計画となっています。

すでに発表されている第1四半期(2025年9〜11月)の実績も好調です。売上高は702億8,500万円(前年同期比14.7%増)、営業利益は46億6,000万円(同18.9%増)と、計画を上回るペースで推移しています。

特に国内事業の伸びが際立っています。日本セグメントの売上高は469億9,700万円(前年同期比18.9%増)と大幅に成長しました。昨年9月から今年1月にかけての既存店売上高は、前年同月比で15〜22%増という異例の高水準が続いています。

客数増加が成長のエンジン

好業績の最大の要因は「客数の増加」です。2025年8月期の国内既存店客数は前年比15.3%増、客単価も1.9%増となりました。値上げをしていないにもかかわらず客単価が上昇しているのは、季節限定メニューや新商品の投入により、自然な形で注文単価が上がっているためです。

インフレで外食全体の価格が上昇するなか、サイゼリヤの割安感が相対的に高まっています。ガストのチーズINハンバーグがライス込みで約1,100円、ロイヤルホストのハンバーグが1,600円以上する一方、サイゼリヤではハンバーグにライスとドリンクバーを付けても700円台で収まります。この価格差が若年層を中心に新規顧客の流入を促しています。

アイドルタイム戦略がカギを握る

アイドルタイムとは何か

飲食業界における「アイドルタイム」とは、ランチピーク(11〜13時)とディナーピーク(18〜20時)の間にある、客足が途切れる時間帯を指します。一般的には14〜17時がこれに該当します。この時間帯は人件費や家賃などの固定費が発生し続けるにもかかわらず売上が立ちにくいため、多くの外食チェーンにとって収益上の課題となっています。

サイゼリヤはこのアイドルタイムの活用を成長戦略の柱に据えています。ランチとディナーの間に若い世代の来店が増えたことで、既存店売上高の大幅な伸びにつながっています。

若者がアイドルタイムに集まる理由

サイゼリヤのアイドルタイム集客が成功している背景には、複数の要因があります。

まず、圧倒的な低価格です。ドリンクバーが200円台、ミラノ風ドリアが300円と、カフェ感覚で利用できる価格設定が若者にとって大きな魅力です。友人との待ち合わせや勉強、軽食の場として、カフェチェーンよりも安く長時間過ごせます。

次に、メニューの多様性があります。食事だけでなく、デザートやドリンクのみの利用もしやすいメニュー構成になっています。SNSでは「サイゼ飲み」と呼ばれるワインとおつまみの組み合わせや、独自のアレンジメニューが話題になり、サイゼリヤ自身もこうした楽しみ方を公認しています。

さらに、「朝サイゼ」の展開も注目されます。2025年6月から試験的に開始され、2026年1月時点で14店舗まで拡大しています。開店から10時まで、焼きたてフォッカチオやパニーニを提供するもので、営業時間帯の拡大による売上機会の最大化を図っています。

固定費の有効活用が利益を生む

アイドルタイムに客が増えることの収益インパクトは大きいです。家賃や設備のリース料などの固定費は、営業時間を通じて一定です。ピーク時間外に売上が増えれば、追加の固定費負担なしに利益が上乗せされます。

変動費である食材費や人件費は増加しますが、サイゼリヤの低価格メニューは原価率が最適化されており、売上増がそのまま利益増に直結しやすい構造になっています。アイドルタイムの有効活用は、既存店舗の生産性を高める「攻めのコスト管理」といえます。

オペレーション改革が低価格を支える

スマホオーダーの段階的導入

サイゼリヤは従来、紙の注文用紙に客が記入して店員に渡すというユニークな注文方式を採用していました。2023年以降、QRコードを読み取るスマホオーダーの導入を段階的に進めています。

注目すべきは、完全デジタル化ではなく「ハイブリッド方式」を採用している点です。スマホオーダーと口頭注文の両方に対応し、デジタルに不慣れな客を排除しない設計になっています。このアプローチはSNSでも好意的に受け止められており、「デジタルに一本化しなかった」ことへの称賛の声が多く見られます。

スマホオーダーにより、ホールスタッフの注文受付にかかる時間が削減され、注文ミスも減少しています。人手不足が深刻化する外食業界において、省人化とサービス品質の維持を両立する取り組みです。

自社工場と垂直統合モデル

サイゼリヤの低価格を支えるもう一つの柱が、食材の調達から加工までを自社で手がける垂直統合型のサプライチェーンです。オーストラリアやイタリアに自社農場を持ち、国内工場で一括加工することで中間マージンを排除しています。

この仕組みにより、原材料費の高騰を一定程度吸収できる体制が整っています。松谷秀治社長は「原価高騰による単純な値上げはしない。新しい提案商品を作ることで価格設定を見直す施策は取り得る」と述べており、値上げではなく商品開発で対応する姿勢を明確にしています。

注意点・今後の展望

持続可能性への懸念

値上げなき成長にはリスクもあります。コメをはじめとする国内食材価格の高止まりが続けば、いずれ吸収しきれなくなる可能性があります。2026年8月期の国内既存店売上高の伸び率目標は7%増と、直近の15〜22%増からは大幅に鈍化する見込みです。高い伸び率を維持し続けることは容易ではありません。

海外事業にも不透明感があります。アジアセグメントの営業利益は第1四半期に前年同期比6.1%減となっており、中国を中心とした海外市場の回復が課題です。

他チェーンとの競争環境

ガストやロイヤルホストなど競合チェーンは値上げを実施しつつ、メニューの高付加価値化を進めています。ファミレス業界全体の客単価は2019年比で約2割上昇しており、サイゼリヤとの価格差は拡大しています。

この価格差はサイゼリヤにとって追い風ですが、同時に「安い店」というイメージが固定化するリスクもあります。客単価の上昇余地が限られるなかで、いかに1店舗あたりの売上を最大化できるかが今後の焦点となります。

まとめ

サイゼリヤの「値上げなき最高益」は、単なる我慢の経営ではありません。アイドルタイムの集客強化による固定費の有効活用、スマホオーダー導入による省人化、垂直統合型サプライチェーンによるコスト吸収という、複合的な戦略の成果です。

今後は原材料費のさらなる高騰や、高い伸び率の持続可能性が課題となります。しかし、「値上げしない」というブランド価値を守りながら利益を伸ばすサイゼリヤの経営手法は、インフレ時代の外食産業において一つのモデルケースとなっています。消費者にとっては、財布に優しい選択肢が残り続けることは歓迎すべきことでしょう。

参考資料:

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