すかいらーくがM&Aで成長加速、資さんうどん内製化の狙い
はじめに
外食産業に物価高や人手不足の逆風が吹く中、すかいらーくホールディングス(HD)がM&A(合併・買収)を通じた成長戦略を加速させています。2024年に買収した九州発のうどんチェーン「資さんうどん」では、2026年にメニューの内製化をさらに進め、全国展開に向けた体制を整える方針です。
海外では、2025年1月に完了したマレーシアのしゃぶしゃぶ店買収を足がかりに、アジア市場への本格進出を目指しています。自前路線からM&A重視へと舵を切ったすかいらーくHDの戦略と、厳しい経営環境を乗り越えるための取り組みを詳しく解説します。
資さんうどん買収の全貌
240億円の大型M&A
すかいらーくHDは2024年、九州発のうどんチェーン「資さんうどん」を運営する会社の全株式を240億円で取得し、子会社化しました。これは同社が2014年に再上場して以来、初めての本格的なM&A案件となります。
資さんうどんは1976年に北九州市で創業し、半世紀近い歴史を持つ地元密着型のチェーンです。現在は九州を中心に約70店舗を展開しており、「北九州のソウルフード」として地元で高い支持を得ています。
金谷実社長が語る買収の意図
すかいらーくHDの金谷実社長は「北九州のソウルフードとして『資さんうどん』の味・サービス・品質を守りながら全国チェーンにできるお助けができれば」と買収の意図を説明しています。地方発の人気チェーンを、大手外食企業のリソースを活用して全国展開するという戦略です。
金谷社長は「3年から5年の数年以内に3倍くらいの200店規模にはできる」とスピード感を持った展開に自信を見せており、2026年には30店の新規出店、2027年以降は関東を含む全国展開も視野に入れています。
内製化による競争力強化
製麺工場の増設を検討
2026年の成長戦略で重要な位置を占めるのが、メニューの内製化です。現在、関西エリアでは製麺を内製化して利益率の向上を図っており、今後は専用工場の増設も検討しています。
うどんチェーンにとって製麺の内製化は、品質管理の徹底とコスト削減を両立させる重要な施策です。外部業者への委託を減らすことで、原材料価格の変動リスクを軽減し、安定した利益率を確保することが可能になります。
「味は変えずに勝負する」
買収発表時には、ファンの間で「味が変わるのではないか」という不安の声も上がりました。これに対し金谷社長は「味は変えずに勝負する」と明言し、資さんうどんの独自性を維持する方針を強調しています。
すかいらーくHDのスケールメリットを活かしつつ、地域で愛されてきた味を守るというバランスが、今後の全国展開の成否を左右するポイントとなります。
マレーシア買収でアジア展開加速
ムスリム向けしゃぶしゃぶ店を傘下に
すかいらーくHDは2025年1月、マレーシアでしゃぶしゃぶ店を展開するクリエイトリーズ・コンサルタンシー(CCグループ)を買収しました。これは同社にとって初の海外M&A案件となります。
CCグループは「すき屋」というブランドでしゃぶしゃぶ店を10年以上前から運営しており、現在13店舗を展開しています。豚肉・アルコールを扱わないためムスリム(イスラム教徒)に支持されており、マレーシア市場で一定の認知度を獲得しています。
2ブランド戦略で市場を攻める
すかいらーくHDはマレーシアで「しゃぶ葉」を5店舗展開していますが、こちらは豚肉・アルコールも提供しており、主に中華系の顧客を中心に支持されています。今回の買収により、ムスリム向けの「すき屋」と中華系向けの「しゃぶ葉」という2ブランド体制が整い、マレーシアの多様な消費者層にアプローチできるようになります。
調達、配送、店舗デザイン、人材教育など多くの分野で共通化を進め、事業効率の向上を図る方針です。
台湾・東南アジアへの展開計画
金谷社長は資さんうどんの海外展開についても言及しており、「近い将来、台湾への出店を考えたい」と述べています。すかいらーくHDは台湾に約70店舗を展開しており、このインフラを活用して資さんうどんの海外進出を目指す計画です。
「まずは来年、国内でいろんな実験をして、めどが立てば再来年あたりには」台湾に進出し、その後東南アジアに広げていく構想を示しています。
外食産業を取り巻く厳しい環境
原材料価格と人件費の高騰
2026年の外食産業は、引き続き原材料価格と人件費の高騰という課題に直面しています。帝国データバンクの調査によると、2026年に予定されている飲食料品の値上げ品目数は1044品目に上り、値上げ要因の99.7%が原材料価格の上昇など「モノ由来」のコスト増となっています。
天候不順による農作物の不作や国際的な需給バランスの変化により、原料価格は高止まりが続いており、企業努力だけで吸収することが難しい状況です。
深刻な人手不足
帝国データバンクの調査では、非正社員の人手不足を感じている企業の割合は飲食店が67.0%と、3年連続で全業種中トップとなりました。飲食業界ではM&Aを検討する店舗オーナーが急増しており、人手不足・コスト上昇・後継者不在という「三重苦」が背景にあります。
すかいらーくHDが積極的なM&A戦略を展開できるのも、こうした環境下で買収先を見つけやすくなっていることが一因といえます。
消費者の節約志向への対応
物価高が続く中、消費者の節約志向も強まっています。外食産業では価格の上昇が顧客離れを招く可能性があり、単なる値上げではなく「納得感のある値上げ」を実現するための付加価値向上が求められています。
注意点・今後の展望
内製化の課題
製麺などの内製化は利益率向上に寄与する一方、初期投資の負担や生産管理の難しさといった課題もあります。専用工場の増設には相応の資金が必要であり、需要予測を誤れば過剰投資となるリスクもあります。
ブランド価値の維持
資さんうどんのような地域密着型チェーンを全国展開する際、最も難しいのがブランド価値の維持です。効率化を追求するあまり、地元ファンが愛した「らしさ」が失われれば、既存顧客の離反を招く恐れがあります。
海外展開のリスク
マレーシアや台湾への展開は成長機会である一方、為替変動リスクや現地の競合との競争、文化的な違いへの対応など、様々な課題が伴います。現地パートナーとの連携や、ローカライズ戦略の構築が成功の鍵を握ります。
まとめ
すかいらーくHDは、資さんうどんの内製化推進とマレーシアでのしゃぶしゃぶ事業強化を両輪として、2026年の成長を目指しています。物価高や人手不足という外食産業全体の課題に対し、M&Aによる規模拡大と効率化で対応する戦略は、今後の業界再編の一つのモデルケースとなる可能性があります。
金谷社長が掲げる「味は変えずに勝負する」という方針が、全国展開や海外進出においても貫かれるかどうかが、中長期的な成長の鍵となりそうです。
参考資料:
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