南アジア系住民はなぜ関西に集まるのか
はじめに
関西にはインドやネパールなど南アジア系の住民が多く暮らしています。街中にはインドにルーツを持つ人が経営するカレー店が珍しくなく、コンビニで働くネパール人の姿も日常的になりました。
特に注目すべきは、大阪府内のネパール人が約15年で32倍に増加しているという事実です。一方、神戸には100年以上の歴史を持つインド人コミュニティが存在し、世代を超えて定住する人々がいます。
なぜ南アジア系の人々は関西に集まるのでしょうか。本記事では、歴史的な背景から現在の状況まで、関西と南アジアのつながりを詳しく解説します。
神戸のインド人コミュニティ:100年以上の歴史
開港都市としての神戸
幕末の開港以降、神戸は港湾都市として発展しました。明治時代には、英領インド帝国からインド商人が渡来し、貿易業を中心にコミュニティを形成していきました。
転機となったのは1923年の関東大震災です。横浜に住んでいたインド人の多くが被災し、神戸へ移住しました。「横浜と神戸に分かれていた在日インド人社会が神戸への一極集中になった」と言われています。
神戸モスクの建立
1935年(昭和10年)、神戸在住のトルコ人、亡命タタール人、インド人貿易商らの寄付・出資により、日本初のモスク「神戸ムスリムモスク」が建てられました。
建立の中心となったのはインド人貿易商フェローズッディン氏で、資金総額(約12万円)の半分以上を一人で負担しました。このモスクは神戸大空襲や阪神・淡路大震災といった大災害を乗り越え、現在も礼拝の場として使われています。
宗教施設とインターナショナルスクール
神戸には、モスクのほかにもヒンドゥー教、シク教、ジャイナ教といったインド発祥宗教の寺院が立ち並んでいます。1984年には在神インド人商人たちの寄付によってジャイナ教寺院が建てられました。
また、1904年頃に設立された神戸インドクラブは、現在もインド人コミュニティの拠点として機能しています。英語で教育するインターナショナルスクールも充実しており、インド人にとって住みやすい環境が整っています。
3世・4世の定住者たち
神戸に住むインド人の大半は定住者で、2世や3世も多くいます。祖先の来日から3世、4世となり、日本へ帰化した人も少なくありません。
東京のインド人コミュニティが最近来日したITエンジニア中心で比較的新しいのに対し、神戸のインド人は何世代にもわたって日本で暮らしてきた歴史があります。「神戸のインド人は性格も日本人に似ている」とも言われます。
大阪へのネパール人急増
15年で32倍という驚異的な増加
近年、日本に住む外国人の中で南アジア系住民、とりわけネパール人の増加が顕著です。大阪府内のネパール人は約15年で32倍に増加したとされています。
2024年末現在、日本に在留するネパール人は233,043人に達しました。2000年時点では3,649人だったことを考えると、約25年で60倍以上に増えたことになります。
都道府県別では、東京都(49,104人)に次いで大阪府(19,864人)が多く、首都圏と京阪神圏に集中しています。
留学生と就労の実態
在留資格別に見ると、留学が85,431人と最も多く、中国に次いで2番目の多さです。次いで家族滞在、技術・人文知識・国際業務、技能の順となっています。
留学生として来日していても、週28時間まで認められているアルバイトで飲食店やコンビニエンスストアで働く人が多いのが実態です。移民労働者としての側面も持っています。
ネパール国内の混乱が背景に
訪日ネパール人が急増した背景には、10年に及ぶネパール内戦(1996〜2006年)やそのさなかに起きた王族殺害事件(2001年)による国内の混乱があります。
政治的・経済的な不安定さから国外での就労を求める人が増え、日本が有力な選択肢となりました。日本語学校への留学を経て就職するルートが確立されていきました。
インドカレー店(インネパ)の拡大
ネパール人が経営するインドカレー店
「インネパ」と呼ばれるネパール人が経営するインドカレー店は、ここ20年ほどで日本全国に広がりました。2024年時点で4,000〜5,000店ほどあると言われています。
もともと日本のインド料理店ではネパール人が多く働いており、彼らが独立して店を始めるようになったことからインネパが生まれました。
拡大の構造
インネパが急速に広がった理由はいくつかあります。
ビザ要件の緩和 2000年代にビザの取得要件が緩和されたことで、来日しやすくなりました。バブル期から出稼ぎに来るネパール人が増えていた土壌もありました。
技能ビザの活用 「技能」ビザでの滞在は中国を上回って最も多く、インド・ネパール料理店のシェフとして働く人が中心です。調理師としての技能が認められれば、在留資格を得られます。
暖簾分けシステム コックが独立開業してオーナーになり、母国から新しくコックを呼び、そのコックも独立するという暖簾分け的なシステムのもとにインネパが広がっていきました。
なぜインド人ではなくネパール人なのか
インド人ではなくネパール人がカレー店を拡大させた理由として、カースト制の影響も指摘されています。
インドでは厳しいカースト制度により、一人ひとりの役割が明確に分かれています。一方、ネパール人は一人で料理から掃除まで何でもこなすため、少ない人数で店舗を回せます。人件費を抑えられることが、店舗拡大を可能にしました。
関西に集まる理由
歴史的なコミュニティの存在
神戸には100年以上の歴史を持つインド人コミュニティが存在します。宗教施設やインターナショナルスクール、同胞のネットワークなど、南アジア出身者にとって生活しやすいインフラが整っています。
新たに来日する人にとっても、同郷の先輩がいる場所は心強い選択肢です。情報交換や就職先の紹介、住居の確保など、コミュニティのサポートを受けられます。
船場の繊維商と大阪のビジネス
戦後、インド商人は大阪にも事業範囲を拡大しました。1937年に神戸で誕生した在日本印度商業会議所は、1957年に本部を大阪に移しています。
特に船場では繊維取引が盛んで、「繊維の動きはインド商の動きを見れば分かる」と言われたほどでした。大阪はビジネスの拠点としても機能してきました。
チェーンマイグレーション
一人が成功すると、その人を頼って同郷の人々が集まってくる「チェーンマイグレーション」も、関西への集中を加速させています。
インネパの暖簾分けシステムはその典型例です。先に来日した人が店を構え、母国から新たな人を呼び、その人がまた独立する。このサイクルが繰り返されることで、同じ地域にコミュニティが拡大していきます。
課題と今後の展望
労働環境の問題
インネパの裏側には、いくつかの問題も指摘されています。過酷な労働やカルチャーショックにより心身を患う店員が多いこと、経営者や人材ブローカーによる搾取が横行していること、店員の妻子が日本社会で孤立しがちなことなどが挙げられます。
「カレー屋は貧困を固定化する装置」という厳しい指摘もあります。借金を抱えて来日し、返済のために低賃金労働を続けるという構造的な問題を抱えているケースもあります。
多文化共生の課題
関西に限らず、外国人住民が増加する地域では、言語の壁、子どもの教育、医療へのアクセスなど、多文化共生の課題が浮上しています。
コミュニティが充実している関西でさえ、日本社会との接点が限られ、孤立するケースは少なくありません。地域社会全体で受け入れ体制を整えていくことが求められています。
まとめ
関西に南アジア系住民が集まる背景には、100年以上の歴史を持つ神戸のインド人コミュニティ、ビジネス拠点としての大阪の役割、そしてチェーンマイグレーションによるネットワークの拡大があります。
大阪のネパール人が15年で32倍に増加したという数字は、日本社会の変化を象徴しています。インネパの急増は、その具体的な表れです。
歴史的なつながりと新たな移住の流れが交差する関西は、日本における多文化共生の縮図とも言えます。課題を直視しながら、共に暮らす社会のあり方を考えていく必要があるでしょう。
参考資料:
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