トヨタbZ4Xが国内EV販売首位に、形勢逆転の背景と戦略を解説
はじめに
「EV出遅れ」と指摘されてきたトヨタ自動車が、国内電気自動車(EV)市場で形勢を逆転しました。新型「bZ4X」の受注台数が発売から3カ月で1万台を突破し、2025年10月〜12月期の国内EV販売でトヨタとして初めて四半期首位に立ったのです。
約15年間にわたり国内EV市場をリードしてきた日産を追い抜いたこの出来事は、トヨタのEV戦略の転換点を示しています。本記事では、トヨタがどのように形勢を逆転したのか、その背景と戦略について詳しく解説します。
新型bZ4Xの販売実績
3カ月で1万1000台の受注を達成
トヨタは2025年12月末までに、新型bZ4Xの受注台数が約1万1000台に上ったと発表しました。2025年10月から12月にかけて、3カ月連続で登録車バッテリーEVのトップを記録。11月と12月は軽自動車を含めても首位となりました。
具体的な販売台数を見ると、2025年10月〜12月期の販売台数は前年同期比22倍の3,448台に達しています。11月単月では前年同月比30倍超の1,580台を記録し、国内EV販売でトヨタとして初めて首位に立ちました。
国内メーカー勢力図の変化
この結果、日本自動車工業会のデータによると、2025年の国内EV販売台数は60,677台(前年比1.6%増)となりました。メーカー別では、トヨタが首位となり、ホンダが2位(2025年9月に軽EV「N-ONE e:」を発売)、日産が3位に後退しています。
日産は約15年間にわたり国内EV市場をリードしてきましたが、トヨタの新型bZ4Xの登場により、その座を明け渡す形となりました。
形勢逆転を実現した3つの戦略
戦略1:航続距離の大幅延長
新型bZ4Xの最大の進化は航続距離です。バッテリー総電力量を従来の71.4kWhから74.7kWhに増量し、WLTCモードの一充電走行距離は最大567kmから746kmへと約32%向上しました。これは国内メーカーのEVとして最長の航続距離であり、「航続距離への不安」というEV購入の最大の障壁を大きく軽減しています。
また、寒冷地でもバッテリー性能を安定させる「バッテリープレコンディショニング機能」を新搭載。冬場の航続距離低下という課題にも対応しています。
戦略2:充電インフラの積極整備
トヨタは車両の性能向上だけでなく、充電インフラの整備にも積極的に取り組んでいます。
新充電サービス「TEEMO(ティーモ)」を開始し、自社ユーザーだけでなく他メーカーのCHAdeMO規格対応車ユーザーも利用可能なオープンプラットフォームとして展開しています。月額基本料金は無料で、利用した分だけ支払う従量料金制を採用。TEEMO充電器の約3割が最大出力150kWの高出力タイプで、新型bZ4Xなら約28分で10%から80%まで充電可能です。
さらに、トヨタは系列販売店への急速充電器設置を支援しており、1基あたり約800万円の支援を行っています。2025年度内に全国500基の急速充電器設置を目指しています。新型bZ4X購入者には1年間の充電サービス無料会員権を提供するなど、充電への不安を解消する施策も展開しています。
戦略3:戦略的な価格設定
新型bZ4Xのメーカー希望小売価格は480万円〜600万円ですが、国のCEV補助金(90万円)などを適用した後の実質価格が、ハリアーやRAV4といった同車格のハイブリッド車(HEV)と同程度になるよう設計されています。
トヨタは「BEVをマルチパスウェイの一つの選択肢にしたい」という方針のもと、EVを特別な選択ではなく、通常の車種選択の延長線上に位置づける戦略を取っています。
トヨタのマルチパスウェイ戦略
「敵は炭素」という考え方
トヨタは「敵は炭素」というカーボンニュートラルへの考え方を掲げ、HEV、PHEV、FCEV、BEVといった電動車から、水素エンジンやカーボンニュートラル燃料に至るまで、あらゆる可能性を追求する「マルチパスウェイ」アプローチを採用しています。
これは、EVのみに集中する一部の海外メーカーとは異なる戦略です。トヨタは地域や顧客のニーズに応じて最適な選択肢を提供することで、実効性のあるカーボンニュートラルの実現を目指しています。
今後のラインナップ拡充
2026年春にはワゴンタイプの「bZ4X Touring」が登場予定です。北米では「bZ Woodland」として発表されており、バッテリー容量74.7kWh、全長4,830mm(通常グレードより140mm長い)という仕様で、アウトドア志向のユーザーをターゲットとしています。
日本のEV市場の現状と課題
依然として低いEVシェア
日本のEV市場は世界的に見ると依然として小規模です。2024年の国内EV販売台数は約10万3000台で、世界のEV販売の0.5%にとどまっています。2025年11月時点でのEV・PHEVの新車販売比率は2.53%と、欧州や中国と比較すると大きな差があります。
2025年10月のEV販売では、輸入車が9カ月連続で最多となっており、登録車のBEVに限定すると輸入車が約89%を占めています。テスラやBYD、ヒュンダイなどEVに注力する海外メーカーが存在感を示す中、国内メーカーの巻き返しが課題となっていました。
2026年に向けた市場活性化
2026年に向けては、複数の国内メーカーが新型EVを投入する予定です。ホンダは新EV「Honda 0シリーズ」を2026年から発売予定。スズキは2026年1月に新型BEV「eビターラ」を発売すると発表しています。レクサスは航続距離1000kmを誇るEV「LF-ZC」を2026年に発売予定です。
また、ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA 1」が2026年に販売開始予定で、BYDも日本専用の軽EVを2026年後半に市場投入することを発表しています。
今後の展望と注目点
トヨタの課題
トヨタがbZ4Xで首位を獲得したとはいえ、グローバル市場ではテスラやBYDなど、EVに特化したメーカーとの競争が続いています。国内市場での成功を海外にも展開できるかが、今後の課題となります。
米国市場では2026年型bZ4Xが34,900ドルからという価格で販売されており、最上位グレードでは314マイル(約505km)の航続距離を実現しています。
充電インフラの継続的整備
EVの普及には充電インフラの整備が不可欠です。トヨタの「TEEMO」サービスをはじめとする充電網の拡充が、今後のEV販売を左右する重要な要素となります。特に、高出力充電器の普及が充電時間の短縮につながり、EV購入のハードルを下げることが期待されます。
まとめ
トヨタのbZ4Xが国内EV販売で首位を獲得したことは、同社のEV戦略が実を結び始めた証といえます。航続距離746kmへの大幅延長、充電インフラの積極整備、戦略的な価格設定という「三位一体」の取り組みが、形勢逆転を実現しました。
トヨタは「マルチパスウェイ」戦略のもと、EVを含む多様な選択肢を提供しながら、カーボンニュートラルの実現を目指しています。2026年に向けて国内各メーカーが新型EVを投入する中、日本のEV市場がどのように発展していくか、注目が集まります。
参考資料:
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