労協が人手不足の最後の砦に。3年で180組合1万人が地域を支える
はじめに
地域の生活インフラ維持や公共性の高いサービスを住民が担う労働者協同組合(労協)が増えています。2022年10月の関連法施行から3年で約177組合が発足し、各地で1万人超が働いています。企業も行政も担いきれなくなった過疎地の労働需要、特に家屋修繕や雪かきといった生活に密着したサービスの受け皿として期待が高まっています。NPOや株式会社とは異なる「出資・経営・労働」の三位一体という独自の仕組みを持ち、地域課題の解決に取り組む労協。本記事では、その実態と可能性、そして事業継続のための課題を詳しく解説します。
労働者協同組合とは何か
三位一体の組織構造
労働者協同組合は、出資・経営・労働のすべてを組合員自身で行う組織です。働く人自身が出資者であり、経営者であり、労働者でもあるという「三位一体」の構造が最大の特徴です。この仕組みにより、地域の課題を熟知した住民が自ら意思決定し、柔軟に事業を展開できます。
2020年12月に労働者協同組合法が成立し、2022年10月1日に施行されました。これにより、新しい法人格として「労働者協同組合」が認められ、地域における多様な需要に応じた事業が実施できるようになりました。
NPO・株式会社との違い
労協の特徴を理解するには、NPO法人や株式会社との違いを知ることが重要です。
設立人数と手続き:
- 労協:3人以上で設立可能、登記のみで成立(準則主義)
- NPO法人:10人以上必要、所轄庁の認証が必要(認証主義、数ヶ月要する)
- 株式会社:1人から可能、登記のみで成立(1〜2週間)
出資:
- 労協:組合員による出資が可能
- NPO法人:出資不可、寄付金・補助金・融資で資金調達
- 株式会社:株式発行により資金調達可能
意思決定:
- 労協:組合員全員が平等に経営に参加(1人1票)
- NPO法人:社員総会で決定
- 株式会社:株主・経営者が決定(株式数に応じた議決権)
利益分配:
- 労協:非営利法人のため配当不可、労働対価として分配
- NPO法人:非営利法人のため配当不可
- 株式会社:営利法人として株主に配当可能
この独自の仕組みにより、労協は地域密着型の柔軟な事業展開が可能になります。
3年で177組合、1万人超が活動
急速な拡大
2026年1月1日時点で、37都道府県で計177法人の労働者協同組合が設立されています。2025年10月2日時点では36都道府県で168組合だったため、わずか3ヶ月で9組合増加しました。
施行後の成長ペースを見ると、設立数は着実に増加しています:
- 施行後1年(2023年10月):59組合設立
- 施行後2年(2024年10月):100組合超、27都道府県に拡大
- 施行後3年(2025年10月):168組合、36都道府県に拡大
各地で1万人超が労協で働いており、地域の生活インフラを支える新たな労働力として存在感を増しています。
活動分野の7割は必須サービス
設立された労協の約70%は、医療、介護、福祉、小売、物流、そして「日常生活支援」サービスに焦点を当てています。これらは住民の生活に不可欠なサービスであり、人手不足が深刻化する中で労協が重要な役割を果たしていることがわかります。
特に過疎地や高齢化が進む地域では、民間企業が採算面から撤退し、行政も予算や人員の制約で十分なサービスを提供できない状況が生まれています。そこに労協が参入することで、住民自らが生活インフラを守る仕組みが機能し始めています。
過疎地の生活インフラを支える労協
家屋修繕と雪かきの担い手不足
過疎地では、家屋の修繕や冬季の雪かきといった生活に欠かせないサービスの担い手不足が深刻です。急速に進む高齢化により、自力で除雪作業を行えない世帯が増加する一方、除雪作業の担い手が足りない状況が生じています。
独居高齢者にとって、自宅周りの除排雪は大きな負担です。対応できなければ、集合住宅への住み替えを余儀なくされ、地域の活力低下につながります。また、家屋の修繕も同様で、地元の工務店や職人が減少し、簡単な修繕すら依頼先が見つからないケースが増えています。
共助による地域除雪
国土交通省は「共助による地域除雪」を推進しており、町内会や自主防災会などの住民が協力して、家屋やその周辺、歩道や生活道路等の公共空間などの除雪作業を行う活動を支援しています。
労協はこの共助の仕組みと親和性が高く、地域住民が出資・経営・労働の三位一体で除雪事業を運営できます。副業として参加する組合員も多く、本業を持ちながら冬季だけ除雪作業に従事するといった柔軟な働き方が可能です。
日常生活支援サービスの展開
家屋修繕や雪かき以外にも、労協は多様な日常生活支援サービスを提供しています。買い物代行、通院の付き添い、庭の手入れ、ゴミ出しサポートなど、高齢者や障がい者が自立した生活を送るために必要なサービスです。
これらのサービスは、民間企業が採算を取りにくい分野です。しかし、労協であれば、地域住民が出資し合い、必要なサービスを自ら提供することで、持続可能な仕組みを構築できます。
副業で支える柔軟な働き方
組合員の多様な働き方
労協の大きな特徴は、組合員が副業として参加できる点です。本業を別に持ちながら、週末や夜間、あるいは季節限定で労協の事業に従事する働き方が可能です。
例えば、農業を営む人が冬季の農閑期に除雪作業を行う、会社員が週末に家屋修繕の手伝いをするといったケースが見られます。これにより、労協は安定した労働力を確保でき、組合員は副収入を得られます。
賃金と労働対価の仕組み
労協は非営利法人であり、株式会社のような配当はできません。しかし、労働の対価として適切な賃金を支払うことは可能です。組合員は出資者でありながら、労働に応じた報酬を受け取ります。
賃金水準は組合員同士の話し合いで決定され、透明性が保たれます。利益が出た場合は、賃金の引き上げや事業への再投資に回されます。この仕組みにより、組合員のモチベーションを維持しながら、地域への貢献を優先した運営が実現します。
事業継続の課題と政策支援の必要性
資金調達の難しさ
労協の大きな課題は資金調達です。組合員の出資金だけでは、設備投資や運転資金が不足するケースが多く、事業の継続・拡大に支障をきたす恐れがあります。
NPO法人であれば寄付金や補助金を活用できますが、労協はNPOよりも事業性が高いため、寄付が集まりにくい側面があります。一方、株式会社のように株式発行による資金調達もできません。金融機関からの融資に頼ることになりますが、実績が少ない設立間もない労協は融資を受けにくい状況です。
政策支援の現状
日本政策金融公庫は「ソーシャルビジネス支援ネットワーク」を全国に整備し、地域の社会的課題解決に取り組む社会的企業やNPO向けにワンストップサービスや経営支援セミナーを提供しています。労協もこの支援の対象となり得ますが、労協固有の資金調達支援プログラムは十分に整備されていません。
政府や自治体は、政策に沿って活動する事業者に補助金や助成金を実施していますが、労協が活用しやすい制度設計が求められます。特に、設立初期の運転資金支援や、設備投資に対する低利融資・補助金の拡充が必要です。
認知度の向上
労協の存在自体がまだ十分に知られていないことも課題です。地域住民や自治体職員が労協という選択肢を知らなければ、地域課題の解決手段として活用されません。
厚生労働省や自治体による広報活動、成功事例の紹介、設立支援セミナーの開催など、認知度向上の取り組みが重要です。
労協の可能性と今後の展望
人手不足の「最後の砦」として
日本全体で人手不足が深刻化する中、労協は「最後の砦」としての役割を担う可能性があります。企業が参入しない、行政も手が回らない領域で、住民自らが出資し、経営し、働くという仕組みは、地域の持続可能性を高めます。
特に、2040年にかけて高齢化と人口減少がさらに進む中、労協のような柔軟な組織形態が地域を支える重要な選択肢となるでしょう。
地域経済の活性化
労協が地域で稼いだお金は、地域内で循環します。組合員への賃金支払い、地元業者からの資材調達など、地域経済の活性化に貢献します。外部の大企業に利益が流出する構造とは異なり、地域主体の経済循環が生まれます。
政策支援の拡充が鍵
労協が真に「最後の砦」として機能するには、政策支援の拡充が不可欠です。資金調達支援、税制優遇、設立手続きの簡素化、事業ノウハウの提供など、多角的な支援策が求められます。
また、既存のNPO法人や企業組合が労協に組織変更できる3年間の猶予期間は2025年10月に終了しました。今後は新規設立が中心となるため、設立支援の体制強化が重要です。
まとめ
労働者協同組合(労協)は、2022年10月の法施行から3年で177組合が設立され、1万人超が活動する新たな組織形態として急成長しています。出資・経営・労働の三位一体という独自の仕組みにより、地域住民が主体となって生活インフラを支えることが可能になりました。
過疎地での家屋修繕や雪かきといった、企業や行政が担いきれないサービスを提供し、副業として柔軟に働ける仕組みが特徴です。設立された労協の約70%は医療、介護、福祉、日常生活支援など必須サービスに焦点を当て、地域課題の解決に取り組んでいます。
しかし、資金調達の難しさや認知度の低さといった課題も残ります。事業継続のためには、政策支援の拡充が不可欠です。日本政策金融公庫のソーシャルビジネス支援ネットワークなどの既存制度に加え、労協固有の資金調達支援プログラムの整備が求められます。
人手不足が深刻化し、2040年にかけて高齢化と人口減少がさらに進む中、労協は地域を支える「最後の砦」としての役割を担う可能性を秘めています。地域主体の経済循環を生み出し、持続可能な地域社会の実現に貢献する労協の今後の発展に期待が集まります。
参考資料:
関連記事
労働者協同組合が地域の人手不足を救う新たな担い手に
2022年施行の労働者協同組合法により全国で約180組合が誕生。NPOや株式会社との違い、過疎地での活用事例、資金調達の課題まで詳しく解説します。
外国人労働者受け入れ、衆院選候補4割が消極的な理由
2026年衆院選で外国人労働者政策が争点に浮上。候補者の37%が受け入れ抑制・中止を主張する一方、2040年には1100万人の労働力不足が予測される。政策議論の現状と課題を解説します。
2040年に働き手1100万人不足、日本の選択肢を考える
日本は2040年に約1100万人の労働力不足に直面するとの予測があります。過去最少の出生数と外国人材受け入れ政策の現状、そして持続可能な社会に向けた課題を解説します。
清水建設が超高層ビル建て替えの工期2割短縮する新工法を開発
清水建設が既存ビルの基礎を再利用し杭打ち作業を省く超高層ビル建て替え新工法を開発。人手不足が深刻化する建設業界で、工期短縮と受注増を狙う戦略を解説します。
労働力人口7000万人突破でも人手不足が続く理由
2025年の労働力人口が初めて7000万人を超えました。女性・高齢者の参入が進む一方、就業時間の減少や構造的な人手不足が深刻化する背景と今後の課題を解説します。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。