アジフライブームが再燃、専門店続々と全国展開へ
はじめに
定食屋の定番メニューだったアジフライが、いま新たなブームとして注目を集めています。2022年以降、専門店が東京や大阪などの都市部に相次いで進出し、中には食べ放題で50枚の記録を持つ猛者も現れるなど、かつての脇役が主役に躍り出ました。
このブームの発端となったのが、長崎県松浦市による「アジフライの聖地」宣言です。さらに静岡県沼津市が開発した「あじたるサンド」が全国大会で優勝するなど、各地でアジフライを核にした地域振興が広がっています。本記事では、なぜいまアジフライなのか、そのブームの背景と今後の展望を解説します。
アジフライブームの背景と人気の理由
専門店の台頭と新しい需要
アジフライは長らく定食の定番メニューでしたが、専門店は存在しませんでした。ハンバーグや唐揚げには専門店があったのに対し、アジフライは「家庭や定食屋で食べるもの」という位置づけだったのです。
この状況を変えたのが、福岡の「アジフライセンターおむこさん」や東京・市ヶ谷の「トーキョーアジフライ」などの専門店です。鮮度の高いアジを使い、揚げたてを提供することで、従来のアジフライとは一線を画す味わいを実現しました。
メディアとSNSの影響
ブームの拡大には、メディアとSNSの影響が大きく寄与しています。2022年5月にTBS系『マツコの知らない世界』でアジフライが特集され、2023年2月にはタモリがニッポン放送『タモリのオールナイトニッポン』で星野源にアジフライ愛を熱く語ったことが話題になりました。
また、福岡の専門店がTikTokで注目を集めたことも、若年層への認知拡大につながっています。従来の「おじさんの定食」というイメージから、SNS映えする新しい食体験へと進化したのです。
家庭での揚げ物離れ
もう一つの背景として、家庭での揚げ物調理の減少が挙げられます。核家族化や単身世帯の増加により、少量の揚げ物を自宅で作ることのハードルが上がりました。油の処理や調理の手間を考えると、専門店で食べる方が合理的という消費者が増えているのです。
長崎県松浦市「アジフライの聖地」の戦略
日本一の水揚げ量を武器に
長崎県松浦市は、西日本魚市統計で日本一のアジ水揚げ量を誇ります。2019年4月27日、友田吉泰市長が「松浦市アジフライ憲章」を掲げ、正式に「アジフライの聖地」を宣言しました。
松浦で水揚げされる真アジは2種類に大別されます。対馬海峡から五島海域の沖合を回遊することで身が引き締まり上品な脂がのった「回遊型」と、伊万里湾内に住み着き質の良いプランクトンを食べて育つ脂身の厚い「定住型」です。いずれも刺身で食べられるほどの鮮度を誇ります。
全国への発信とブランド化
松浦市は、ふるさと納税の返礼品にアジフライセットを設定したり、「松浦アジフライマップ」を作成して市内の提供店舗を紹介するなど、積極的な情報発信を行っています。また、オンラインショップ「まつうらどきどきマーケット」を通じた全国販売も展開中です。
この戦略が功を奏し、東京の「トーキョーアジフライ」など首都圏の専門店も松浦産のアジを使用するようになりました。地域ブランドが都市部の専門店を支えるという、新しい地域振興のモデルケースとなっています。
食べ放題と新業態の登場
東京駅「三陽食堂」の挑戦
2024年7月、東京駅八重洲地下街に福岡の水産会社・三陽が運営する「三陽食堂」がオープンしました。この店の最大の特徴は、夜限定でアジフライ食べ放題を提供していることです。
価格は1,600円で時間制限なし。追加注文は自由で、店舗の記録は45枚に達しています。福岡の店舗では50枚を食べた猛者もいるとのことです。昼は1,100円でアジフライ定食を提供し、アジのたたきが食べ放題になるなど、時間帯によってメニューを変えることで幅広い客層に対応しています。
付加価値とカスタマイズ
アジフライブームは、単に量を提供するだけでなく、付加価値を加えた新メニューの開発も促しています。卵黄をのせたアジフライや、タルタルソースのバリエーション展開など、従来の定番から一歩進んだ提案が増えています。
沼津市「あじたるサンド」の快進撃
Sea級グルメ全国大会で優勝
静岡県沼津市が開発した「沼津あじフライたるたるサンド」は、2025年9月に青森で開催された「第16回みなとオアシスSea級グルメ全国大会」でグランプリを獲得しました。
このサンドイッチは、揚げたてのアジフライをソフトなコッペパンで挟み、静岡県産の緑茶とワサビを使った緑色のタルタルソースをかけたものです。沼津らしさと静岡らしさを両立させたユニークなご当地グルメとして注目を集めています。
地域の特性を活かす
静岡県はアジの干物生産量で全国の43%を占め、そのうち約4割を沼津市が生産しています。この地域資源を活かし、沼津港周辺の8店舗が「あじたるサンド」を提供しています。
優勝後は凱旋特別販売も行われ、沼津市役所前での限定販売には多くの市民が訪れました。地域の誇りとなる商品開発が、観光振興と地域活性化につながる好例です。
アジの栄養価と健康志向の追い風
DHA・EPAの豊富な供給源
アジフライブームには、健康志向の高まりも寄与しています。アジなどの青魚には、DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(イコサペンタエン酸)というオメガ3脂肪酸が豊富に含まれています。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18歳以上の男女ともに1日あたり1,000mg以上の摂取が推奨されています。DHAは脳神経の伝達を活発にし、EPAは血液をサラサラにする効果があるとされています。
高タンパク・低脂質の理想的な食材
アジは良質なタンパク質が豊富で、比較的低脂質です。また、タウリンも含まれており、コレステロール値の低減、肝機能の向上、血圧調整など多様な健康効果が期待されています。
揚げ物でありながら健康に配慮できる点が、現代の消費者ニーズと合致しているのです。
今後の展望と注意点
持続可能性への配慮
アジフライブームが拡大する中で、資源管理の重要性も高まっています。アジは比較的資源量が安定していますが、過度な需要増加は価格上昇や資源枯渇のリスクをはらみます。
松浦市のように地元の漁業と連携し、持続可能な漁業を推進することが、長期的なブームの継続には不可欠です。
地域間競争と差別化
「アジフライの聖地」を名乗る地域が増えれば、ブランド価値の希釈化が懸念されます。松浦市は先行者利益を活かしつつ、品質管理とストーリー性の強化が求められます。
一方、沼津市のように独自のアレンジで差別化を図る戦略も有効です。各地域が自らの強みを活かした商品開発を進めることで、アジフライ市場全体のパイ拡大につながるでしょう。
専門店の収益モデル
食べ放題は集客力がある一方、原価率の管理が課題です。三陽食堂のように松浦産の安定供給ルートを確保し、自社で水産事業を持つ強みを活かすビジネスモデルが理想的です。
個人経営の専門店が参入する場合は、食べ放題ではなく付加価値型メニューや、テイクアウト・デリバリーとの組み合わせなど、多角的な収益源の確保が重要になります。
まとめ
アジフライブームは、単なる懐かしい定食メニューの復権ではなく、地域ブランド戦略、健康志向、外食需要の変化が複合的に作用した現象です。
長崎県松浦市の「聖地」宣言、沼津市の「あじたるサンド」全国優勝、東京での専門店展開と食べ放題の登場など、各地での取り組みが相乗効果を生み出しています。
今後は、持続可能な資源管理と地域ごとの差別化戦略が成功の鍵を握ります。消費者にとっては、高品質で健康的、かつ手頃な価格のアジフライを楽しめる選択肢が増えることは歓迎すべきでしょう。
アジフライという身近な食材が、地域振興と新しい食文化の創造につながる可能性を秘めています。このブームが一過性で終わらず、日本の食文化の一翼を担う存在として定着することが期待されます。
参考資料:
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