日本の労働力人口が初の7000万人突破、女性と高齢者が牽引
はじめに
2026年1月30日、総務省が発表した労働力調査により、2025年平均の労働力人口が7004万人となり、比較可能な統計が開始された1953年以来初めて7000万人を突破したことが明らかになった。就業者数も6828万人と前年比47万人増加し、過去最高を更新した。この歴史的な節目は、人口減少が進む日本において、女性や高齢者の労働参加拡大が進んでいることを示している。一方で、パートタイムや短時間勤務者の増加により、一人当たりの労働時間は減少傾向にあり、労働市場の質的変化も浮き彫りになっている。
労働力人口7000万人突破の背景
女性の労働参加率の飛躍的向上
2025年の労働力人口7004万人の内訳を見ると、男性が3805万人(前年比5万人増)、女性が3200万人(同43万人増)となっており、増加分の9割以上を女性が占めている。特に注目すべきは、女性の正規雇用労働者数が1298万人と10年連続で増加している点である。
年齢階層別に見ると、60代前半の女性の就業率は過去20年余りで37.8%から63.8%まで急上昇し、60代後半でも2012年の27.8%から2023年には43.1%まで上昇している。これは、育児や介護との両立を支援する制度の整備、短時間勤務制度の普及、そして賃金上昇による労働インセンティブの向上が複合的に作用した結果と考えられる。
2025年6月時点で、15~64歳の女性の労働参加率は78%に達し、主要先進国と比較しても遜色ないレベルまで向上している。女性活躍推進法の施行以降、企業における女性の管理職登用や柔軟な働き方の導入が進んだことが、この数字を後押ししている。
高齢者雇用の拡大が労働力を支える
もう一つの大きな牽引力となっているのが、65歳以上の高齢者の就業増加である。2025年の65歳以上の就業者数は930万人と21年連続で増加し、過去最多を記録した。就業者総数に占める65歳以上の割合は13.7%、つまり就業者の7人に1人が高齢者という計算になる。
年齢階級別の就業率を見ると、65~69歳で53.6%、70~74歳で35.1%、75歳以上でも12.0%となっており、特に前期高齢者(65~74歳)の就労意欲の高さが際立っている。2024年の65歳以上全体の就業率は25.7%と前年比0.5ポイント上昇しており、高齢化率が29.4%まで上昇する中で、労働力としての高齢者の存在感は年々増している。
この背景には、年金受給開始年齢の段階的引き上げ、継続雇用制度の普及、そして健康寿命の延伸により「働ける高齢者」が増加していることがある。また、人手不足に悩む企業側にとっても、経験豊富な高齢者は貴重な戦力となっており、雇用延長や再雇用の動きが加速している。
労働時間減少が示す労働市場の質的変化
パートタイム労働者の急増
労働力人口と就業者数が過去最高を更新する一方で、労働の質的側面では大きな変化が起きている。最も顕著なのが、パートタイム労働者の増加である。日本のパートタイマー比率は1995年の14.5%から2019年には31.5%へと25年間で2倍以上に膨れ上がった。2020年のOECDデータによると、週30時間未満で働くパートタイマーの割合は全雇用者中25.8%で、加盟国中4位となっている。
パートタイマーの総実労働時間は年間1100時間程度と、一般労働者の2000時間前後の半分程度にとどまる。このため、パートタイム労働者が増加すればするほど、労働者全体の平均労働時間は減少する構造になっている。実際、80年代以降、週休2日制の普及と短時間労働者の増加を背景として、一人当たりの平均労働時間は長期的な低下傾向を示している。
短時間勤務制度の普及と働き方の多様化
近年は、育児や介護のために1日の労働時間を6時間までにする時短勤務(短時間勤務制度)を活用する人が増加している。女性活躍推進の流れの中で、多くの企業で運用が進んでおり、特に子育て世代の女性労働者にとって、フルタイムとパートタイムの中間的な働き方として定着しつつある。
この傾向は、労働力人口の増加と一人当たり労働時間の減少という一見矛盾する現象を同時に説明している。つまり、「働く人の数は増えているが、一人ひとりの労働時間は短くなっている」というのが現在の日本の労働市場の実態なのである。
注意点と今後の展望
労働生産性向上の必要性
労働力人口が7000万人を突破したことは喜ばしいニュースだが、手放しで喜べない側面もある。一人当たりの労働時間が減少している中で経済成長を維持するには、労働生産性の向上が不可欠である。日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟国の中でも低位に位置しており、デジタル化の推進、業務プロセスの効率化、人材育成への投資などを通じた生産性向上が急務となっている。
人口減少下での持続可能性
今回の労働力人口増加は、女性や高齢者の労働参加率向上によって実現したものであり、いわば「労働参加の余地」を掘り起こした結果である。しかし、この余地にも限界がある。日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8730万人をピークに減少を続けており、2024年には7370万人まで16%も減少している。
女性の労働参加率が既に78%まで上昇し、高齢者の就業率も世界有数の水準に達している現状を考えると、今後はこれ以上の労働参加率向上による労働力確保は困難になると予想される。中長期的には、外国人材の受け入れ拡大、AI・ロボットによる自動化、リモートワークなど場所にとらわれない働き方の推進など、多角的な取り組みが必要になるだろう。
雇用の質への注目
また、パートタイム労働者の増加は、労働力の「量」は確保できても「質」の面では課題を残している。パートタイム労働者は一般労働者と比べて賃金水準が低く、キャリア形成の機会も限られがちである。特に高齢者雇用では低賃金や男女格差などの問題が指摘されており、雇用の「質」を高めることが今後の重要な政策課題となる。
まとめ
2025年の労働力人口が7004万人と初めて7000万人を突破したことは、人口減少社会における日本の労働市場の一つの転換点と言える。女性の社会進出と高齢者の就労継続が、生産年齢人口の減少という構造的課題を一時的に緩和している。
しかし、一人当たりの労働時間が減少している現実は、今後の経済成長のためには労働生産性の向上が不可欠であることを示している。また、女性や高齢者の労働参加率が既に高水準に達している中、今後も労働力を確保し続けるには、外国人材の活用、技術革新による自動化、働き方改革のさらなる推進など、多面的なアプローチが求められる。
労働力人口7000万人という数字は、日本の労働市場が大きな変革期にあることを象徴している。量の確保から質の向上へ、そして持続可能な労働市場の構築へ――これが今後の日本が取り組むべき課題である。
参考資料
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