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by nicoxz

金正恩氏が副首相を解任、党大会前の規律引き締めか

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はじめに

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が、産業機械を製造する工場の改修事業をめぐって、担当責任者であった楊勝虎副首相を解任したことが明らかになりました。朝鮮中央通信が2026年1月20日に報じたもので、金正恩氏は演説の大半を批判に費やし、楊氏の姿勢を「党を愚弄しようとしている」と厳しく断罪しました。

この解任劇の背景には、2026年に開催が予定されている朝鮮労働党第9回大会を控え、経済部門の幹部に対する規律を引き締める狙いがあるとみられています。本記事では、今回の解任の経緯と背景、そして金正恩体制における幹部処罰の実態について詳しく解説します。

解任の経緯と理由

工場竣工式での公開批判

金正恩氏は1月19日、東部・咸鏡南道咸興市にある「竜城機械連合企業所」の竣工式に出席しました。この工場は産業機械を製造する重要な施設で、咸興市は北朝鮮の重化学工業の中心地として知られています。

竣工式において金正恩氏は演説を行いましたが、その大半を楊勝虎副首相への批判に充てました。金氏は、事前に数年間の研究を重ねてきた改修事業が「最初の工程から道を踏み外した」と指摘し、その結果として多くの労力と費用、時間が無駄になったと厳しく批判しました。

「党を愚弄」との厳しい断罪

金正恩氏は楊氏の無責任な態度について、「党を愚弄しようとしている」と表現し、その場で解任を宣言しました。さらに、この問題は軍需工業部門にも影響を波及させたとされ、国家経済に重大な損害を与えたとの見方が示されています。

金氏は楊勝虎氏だけでなく、金徳訓前首相の責任にも言及したとされており、工場改修をめぐる責任追及が複数の幹部に及んでいることがうかがえます。

楊勝虎氏の経歴

楊勝虎氏は2019年4月に機械工業相に任命され、翌2020年4月には機械工業相を解任されて内閣副総理(副首相)に就任しました。2021年1月の朝鮮労働党第8回大会では党中央委員会委員に再選されており、党と政府の両方で要職を務めてきた人物です。

今回の解任により、楊氏は約6年ぶりに政権中枢から外れることになりました。

党大会を前にした規律引き締め

朝鮮労働党第9回大会の開催

北朝鮮では2026年、朝鮮労働党の最高意思決定機関である党大会(第9回)の開催が予定されています。党大会は党の規約上、最高意思決定機関と定められており、党の路線・基本政策の決定や中央委員会の選挙などを行う重要な会議です。

前回の第8回大会は2021年1月に開催され、「国家経済発展5カ年計画」(2021年〜2025年)が策定されました。第9回大会では、この5カ年計画の成果を総括するとともに、次期計画の策定が行われる見通しです。

経済政策の成果アピールと人事刷新

専門家の分析によると、北朝鮮は第8回党大会で策定した国家経済発展5カ年計画について、「困難の中でも一定の成果を収めた」と総括する可能性が高いとされています。金正恩氏は2025年9月の最高人民会議で「我々は展望性のある方向へ進んでいる」と述べており、政権内に一定の達成感があるとみられます。

一方で、党大会とその後の最高人民会議では大規模な人事調整が行われる可能性も指摘されています。今回の楊勝虎氏の解任は、こうした人事刷新の先駆けとなる動きかもしれません。

ロシアとの関係改善と経済回復

北朝鮮経済は近年、ロシアとの関係改善を背景に回復基調にあるとされています。第9回党大会では、生産・建設事業に関する構想を大幅に拡充し、国家経済発展5カ年計画の「第2ラウンド」を打ち出すとの見方も強まっています。

こうした経済面での成果をアピールする一方、計画の達成に支障をきたした幹部には厳しい責任追及を行うことで、党の統制力を誇示する狙いがあるとみられます。

金正恩体制の幹部処罰の実態

恐怖政治による統制

金正恩体制下では、幹部に対する粛清や処罰が頻繁に行われています。韓国の国家安保戦略研究院によると、金正恩体制発足後の5年間で、高官や住民ら340人が公開銃殺や粛清に遭ったとされています。

最も衝撃的だったのは、2013年12月の張成沢氏の処刑です。金正恩氏の叔父であり「後見人」として知られた張氏は、「国家転覆陰謀行為」の罪で死刑判決を受け、即日処刑されました。北朝鮮指導者が親類を処刑に踏み切るのは異例のことでした。

近年の粛清事例

2025年には、金正恩氏が「反党・反革命的要素を徹底的に制圧せよ」との方針を発表し、慈江道の軍需工業部門で23人が処刑・粛清されました。ある幹部は「党の軍需工業政策を信じられない」と発言しただけで処罰の対象となったとされています。

また、平安南道では農業部門の幹部34人が粛清されました。不作の原因は自然災害やコロナ対策の国境封鎖による肥料・資材輸入停止にあり、幹部にとっては不可抗力に近い状況でしたが、金正恩総書記が掲げる最重要課題を達成できなかったことが「罪」とされました。

解任と処刑の違い

今回の楊勝虎氏については「解任」という表現が使われており、処刑や粛清とは異なります。ただし、北朝鮮では解任後に処刑されるケースも珍しくなく、楊氏の今後の処遇については不明な点が多い状況です。

金正恩体制では、幹部の忠誠心を確保するために恐怖政治が用いられているとされ、いかに体制に忠誠を誓っていても、ある日突然処罰される可能性があるとされています。

北朝鮮経済政策の行方

「地方発展20×10政策」の推進

金正恩氏は2024年1月の最高人民会議で「地方発展20×10政策」を発表しました。これは毎年全国20の市・郡を選定して工場などの建設を行い、10年以内に全国約200の市・郡において住民の生活水準を向上させるという政策です。

竜城機械連合企業所の改修も、こうした工業化政策の一環であったと考えられます。金正恩氏がこの工場の問題を厳しく追及した背景には、地方発展政策の成否に対する強い関心があるとみられます。

自力更生・自給自足路線の継続

金正恩政権は国際社会からの制裁の長期化を覚悟し、「自力更生、自給自足」を基本方針として掲げています。外部からの支援に頼らず、国内資源と技術で経済を発展させるという路線であり、工場の改修や新設はその重要な柱となっています。

今回の副首相解任は、こうした経済政策を担う幹部に対し、計画の確実な遂行を求めるメッセージともいえます。

今後の展望と注意点

党大会での人事に注目

2026年の朝鮮労働党第9回大会では、大規模な人事調整が行われる可能性があります。今回の楊勝虎氏の解任は、党大会に向けた「見せしめ」的な意味合いもあると考えられ、今後も幹部への責任追及が続く可能性があります。

経済政策の実態は不透明

北朝鮮は経済の回復基調をアピールしていますが、その実態については不透明な部分が多くあります。工場改修の遅れや問題が公式に認められたこと自体、経済政策の実行面で困難を抱えていることの証左ともいえます。

国際情勢への影響

北朝鮮の内政は、朝鮮半島情勢や日本の安全保障にも影響を与えます。党大会を前にした権力の引き締めがどのような対外政策につながるのか、引き続き注視が必要です。

まとめ

金正恩総書記による楊勝虎副首相の解任は、2026年の朝鮮労働党第9回大会を前にした規律引き締めの一環とみられます。工場改修の遅れという理由ではありますが、その背景には経済政策の確実な遂行を幹部に求める金正恩氏の強い意思があるといえます。

北朝鮮では幹部への粛清や処罰が恒常的に行われており、今回の解任もその延長線上にあります。党大会に向けて、今後も幹部への責任追及が続く可能性があり、北朝鮮の内政動向から目が離せない状況です。

参考資料:

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