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by nicoxz

移動中でも無線充電可能に パナソニック・慶大が新技術開発

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はじめに

パナソニックホールディングス(HD)と慶應義塾大学が、移動中の機器に無線で充電できる技術の開発を進めています。電子レンジで使われるマイクロ波を活用したこの技術は、2028年度の実用化を目指しています。

当初はロボット向けセンサーなど産業用途を想定していますが、将来的には持ち歩くスマートフォン、飛行中のドローン、さらには走行中の電気自動車(EV)への給電も視野に入れています。

本記事では、この革新的な無線充電技術の仕組みと、実用化に向けた課題、そして将来の展望について詳しく解説します。

ワイヤレス電力伝送技術の概要

主な伝送方式

ワイヤレス電力伝送(WPT)には、複数の方式があります。大きく分けると「近接結合型」と「空間伝送型」の2種類です。

近接結合型は、電磁誘導方式や磁界共振方式が該当します。電磁誘導方式は伝送距離が数mmから数cm程度で、電動歯ブラシやスマートフォンの「置くだけ充電」に使われています。磁界共振方式は数10cmから数m程度の距離まで伝送可能です。

空間伝送型は、マイクロ波やレーザーを使って10m以上離れた場所にも電力を伝送できます。伝送距離が長い反面、効率面での課題がありますが、移動する機器への給電に適しています。

マイクロ波電力伝送の原理

今回パナソニックが開発を進めているのは、マイクロ波を使った空間伝送型のワイヤレス給電技術です。送電側でマイクロ波を発生させ、アンテナから電波として飛ばします。受電側ではレクテナ(整流アンテナ)と呼ばれる装置で電波を受信し、直流電力に変換します。

マイクロ波電力伝送の歴史は古く、1964年に米国のウィリアム・ブラウンがレクテナを発明し、マイクロ波で駆動する模型ヘリコプターを実証しました。1975年にはNASAのジェット推進研究所で、1.5km先のレクテナアレイに30kWの電力を伝送することに成功しています。

パナソニックの技術開発

Enesphere(エネスフィア)システム

パナソニックは京都大学と共同で、マイクロ波を活用した長距離ワイヤレス電力伝送技術「Enesphere(エネスフィア)」を開発してきました。このシステムは920MHz帯のマイクロ波を使用し、電池交換や電源ケーブルが不要な環境を実現します。

2022年3月には、このシステムのサンプル提供を開始しました。約5m離れた場所から出力1Wの電力を送電し、複数のセンサーで一括受電する仕組みを構築しています。

軽量・フレキシブルアンテナの開発

パナソニックは、人体に密着して使用可能な小型・薄型で高効率なアンテナも開発しました。軽量でフレキシブルな素材を活用しており、BLE(Bluetooth Low Energy)通信機能も搭載しています。

このアンテナはカードサイズで、ウェアラブルデバイスや産業用センサーへの応用が期待されています。

移動中給電の応用分野

ドローンへの飛行中給電

ドローンは、マイクロ波給電技術の最も有望な応用先の一つです。電動ドローンの最大の課題は、バッテリー容量による航続距離と飛行時間の制限です。バッテリーを大型化すると重量が増加し、飛行性能が低下するというジレンマがあります。

飛行中給電が実現すれば、ドローンは充電のために着陸する必要がなくなり、理論上は無限に飛行を続けられます。物流配送や監視業務、災害対応など、長時間の連続運用が必要な用途で大きなメリットがあります。

米国のGlobal Energy Transmission(GET)社は、飛行中のドローンに無線充電するシステムを開発しており、24時間365日の連続運用を可能にする技術として注目されています。

EVへの走行中給電

電気自動車への走行中給電は、EV普及の大きな障壁を取り除く可能性があります。道路に埋め込まれた送電装置から走行中のEVに給電できれば、充電スタンドに立ち寄る必要がなくなり、電欠の心配から解放されます。

日本では2023年10月から、千葉県柏市の柏の葉キャンパスで公道実証実験が開始されました。東京大学を中心とした産学官連携チームによる取り組みで、交差点に送電コイルを埋め込み、10秒の充電で約1km走行可能な電力を供給できるとされています。

大成建設も「T-iPower Road」という次世代道路を開発しており、2025年7月には時速60kmで走行するEVへの連続無線給電に国内で初めて成功しました。

IoTセンサーへの給電

産業用IoTセンサーは、パナソニックが当初の用途として想定している分野です。工場やプラントに設置された多数のセンサーは、電池交換やケーブル配線が大きな負担となっています。

ワイヤレス給電により、センサーのメンテナンスフリー化が実現します。配線が不要になれば、設置の自由度も大幅に向上します。工場の自動化やスマートファクトリーの実現に不可欠な技術といえます。

市場規模と成長予測

ワイヤレス給電市場

矢野経済研究所によると、2025年のワイヤレス給電世界市場規模は約6,269億円と見込まれています。2035年には約1兆6,726億円に達すると予測されており、年平均成長率は堅調です。

現在は小型電子機器向けの非放射型(置くだけ充電)が市場を牽引していますが、今後は産業機器やモビリティ分野での採用拡大が期待されています。

EV向けワイヤレス給電の見通し

EV向けのワイヤレス給電については、停車中給電は2030年前後、走行中給電は2035年前後から本格的な社会実装と普及が始まると予測されています。

日本国内では「EVワイヤレス給電協議会」が設立され、関西電力、自動車メーカー、電機メーカーが参加しています。経済産業省、国土交通省、環境省もオブザーバーとして参加しており、産学官一体での取り組みが進んでいます。

実用化に向けた課題

技術的課題

空間伝送型のワイヤレス給電は、距離が長くなるほど効率が低下する課題があります。電波は空間を拡散して進むため、遠くに届く電力は少なくなります。高効率な送受電技術の開発が継続的に求められます。

移動する機器への給電では、アンテナの位置が常に変化するため、電力を正確に届けるビームフォーミング技術も重要になります。

制度・インフラ面の課題

マイクロ波を使った無線給電は、電波法などの規制に適合する必要があります。日本では920MHz帯の使用が認められていますが、大電力での運用には追加の制度整備が必要となる可能性があります。

EVの走行中給電を全国の道路に導入する場合、約7兆円のインフラ整備費用がかかるという試算もあります。導入を進める優先順位や費用負担のあり方について、社会的な合意形成が必要です。

安全性への配慮

マイクロ波は人体への影響も考慮する必要があります。パナソニックの技術では、人体に安全なレベルの出力で運用できるよう設計されていますが、社会実装に向けては安全基準の明確化と周知が重要になります。

まとめ

パナソニックHDと慶應義塾大学が開発を進める移動中無線充電技術は、2028年度の実用化を目指しています。当初はロボット向けセンサーを想定していますが、将来的にはドローン、スマートフォン、EVなど幅広い分野への応用が期待されます。

ワイヤレス給電市場は2035年に約1兆7,000億円規模に成長すると予測されており、この技術が実用化されれば、私たちの生活を大きく変える可能性があります。充電から解放された世界に向けて、技術開発と社会実装の両面での進展が注目されます。

参考資料:

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