ダイハツ初の軽商用EV発売、航続257kmで巻き返し
はじめに
2026年2月2日、ダイハツ工業が初の量産バッテリーEV(BEV)となる「e-ハイゼットカーゴ」と「e-アトレー」を発売しました。軽商用EVの分野では、三菱自動車のミニキャブEVやホンダのN-VAN e:がすでに市場を開拓しており、ダイハツは最後発での参入となります。
当初は2023年度中の投入が予定されていましたが、2023年末に発覚した大規模な認証不正問題により計画は大幅に遅延しました。約2年の遅れを経て、ようやく市場に投入された新型EVは、WLTCモードで257kmという軽商用EVクラス最長の航続距離を実現しています。
本記事では、e-ハイゼットカーゴ・e-アトレーの詳細なスペックや価格、競合車種との比較、そしてダイハツが巻き返しを図る戦略について解説します。
ダイハツ初のBEV「e-ハイゼットカーゴ」「e-アトレー」の全容
基本スペックと価格
e-ハイゼットカーゴの価格は314万6,000円(税込)から、e-アトレーは346万5,000円(税込)からとなっています。バッテリーにはリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を採用し、容量は36.6kWhです。駆動方式はリアにモーターを搭載した後輪駆動で、最大積載量はガソリン車と同等の350kgを確保しています。
一充電走行距離はWLTCモードで257kmを達成しました。これは軽商用EVバンとしてはクラスNo.1の数値です。荷室スペースについても、軽キャブオーバーバンNo.1(4シーター)の広さを実現しており、BEV化による積載性の犠牲を最小限に抑えています。
トヨタ・スズキとの3社共同開発
この車両の大きな特徴は、ダイハツ単独ではなくトヨタ・スズキとの3社共同開発という点です。新開発のBEVシステム「e-SMART ELECTRIC」は、ダイハツが培った軽自動車づくりのノウハウ、トヨタの電動化技術、そしてスズキの小型車開発の知見を組み合わせたものです。
駆動系には小型・軽量化を実現した「eAxle(イーアクスル)」を採用しています。生産はダイハツ九州の大分(中津)第1工場で行われ、BEV専用設備を新設することなく、既存のガソリン車ラインでの混流生産を実現しました。この効率的な生産体制がコスト抑制に貢献しています。
生産されたBEVはトヨタとスズキにもOEM供給され、トヨタブランドでは「ピクシスバン」のBEV仕様として販売されます。販売目標は2車種合計で月販300台です。
充電性能と外部給電機能
充電性能も実用的な水準を確保しています。急速充電では、電欠ランプ点灯状態から約50分で充電率80%まで回復できます。普通充電は6kW出力に対応し、約6時間でフル充電が可能です。
注目すべきは外部給電機能が全車標準装備されている点です。AC100V・最大1,500Wのアクセサリーコンセントを備え、V2H(Vehicle to Home)対応の急速充電インレットも搭載しています。災害時の非常用電源や、現場作業での電動工具への給電など、商用車ならではの実用的な使い方が想定されています。
軽商用EV市場の競争環境
競合車種との比較
現在、軽商用EV市場には複数のメーカーが参入しています。主要車種のスペックを比較すると、ダイハツの優位性が明確になります。
三菱ミニキャブEVはバッテリー容量20kWh、航続距離180km(WLTC)で価格は約243万円からです。日産クリッパーEVはミニキャブEVのOEMモデルで同じ航続距離180kmですが、価格は約287万円からとやや高めに設定されています。
ホンダN-VAN e:はバッテリー容量29.6kWh、航続距離245km(WLTC)で、2025年4月までに累計5,000台を販売した実績があります。
これに対し、ダイハツのe-ハイゼットカーゴは36.6kWhの大容量バッテリーで257kmの航続距離を実現しました。ホンダN-VAN e:を12km上回り、三菱ミニキャブEVと比較すると77kmもの差があります。
法人需要の取り込みが鍵
軽商用EVの主な顧客は、配送業者や営業車両を持つ法人です。物流業界では「2024年問題」を契機に効率化が急務となっており、EVへの切り替えは燃料コストの削減だけでなく、企業のカーボンニュートラル対応としても注目されています。
航続距離257kmという数値は、1日の配送業務をこなすのに十分な水準です。LEVO(低炭素投資促進機構)の補助金を活用すれば、実質的な導入コストを大幅に抑えることも可能です。ダイハツは全国に広がる販売・サービスネットワークを強みとして、法人顧客の獲得を目指しています。
認証不正問題からの再出発
不正問題の経緯と影響
ダイハツの認証不正問題は2023年4月に最初の不正が発覚し、同年12月には第三者委員会の調査で174件もの不正が明らかになりました。対象は64車種に及び、もっとも古い不正は1989年にまでさかのぼるものでした。全車種の出荷停止という異例の事態に陥り、企業としての信頼は大きく損なわれました。
2024年2月にはCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)から脱退。軽商用EVの投入計画も白紙に近い状態となりました。その後、再発防止策として挙げた102項目すべてについて実施済みまたは継続実施中のフェーズへ移行し、2025年1月に国土交通省へ報告を完了しています。
CJPTへの復帰と今後の展望
2025年1月29日、ダイハツはCJPTおよびCJPT-Asiaへの復帰を果たしました。トヨタが保有するCJPTの株式から10%がダイハツに再度譲渡され、資本構成はトヨタ60%、いすゞ10%、日野10%、スズキ10%、ダイハツ10%となっています。
今回のe-ハイゼットカーゴ・e-アトレーの発売は、認証不正問題からの再出発を象徴する重要な一歩です。ただし、月販300台という控えめな販売目標が示すように、ダイハツは信頼回復を最優先に、着実な歩みを進める姿勢を見せています。
注意点・展望
軽商用EV市場はまだ黎明期にあり、いくつかの課題も残っています。まず、充電インフラの整備が十分でない地域では、EVの運用に制約が生じます。特に地方の配送拠点では、急速充電器の設置が進んでいないケースもあります。
また、314万円からという価格は補助金を活用しても、ガソリン車のハイゼットカーゴ(約110万円〜)と比較すると依然として高額です。ランニングコストでの優位性を含めたトータルコストで法人顧客を説得できるかが普及の鍵となります。
今後は、トヨタ・スズキへのOEM供給による量産効果でコストダウンが進むことが期待されます。さらに、軽トラックのEV化など、ラインナップの拡充も注目されるポイントです。
まとめ
ダイハツ初の量産BEV「e-ハイゼットカーゴ」「e-アトレー」は、認証不正問題による約2年の遅れを経て、ついに市場に投入されました。航続距離257kmという軽商用EVクラス最長の性能と、350kgの最大積載量を両立した点は、競合に対する明確な強みです。
トヨタ・スズキとの3社共同開発により、効率的な生産体制とOEM供給網を構築している点も注目に値します。軽商用EV市場での競争は今後さらに激化することが予想されますが、ダイハツの巻き返しがどこまで進むか、業界の動向を注視していく必要があります。
参考資料:
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