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by nicoxz

住友重機械が造船で今治造船と協業、横須賀が継続へ

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はじめに

日本の造船業界に新たな動きが生まれています。2024年に新造船事業からの撤退を発表していた住友重機械工業が、ビジネスモデルを変えて造船を継続することになりました。国内最大手の今治造船から船体建造を受託し、横須賀造船所の設備と技術を活かす形です。

この決定の背景には、政府が掲げる国内造船業の建造量倍増目標があります。127年の歴史を持つ横須賀造船所は、自らが船を作って販売する「造船会社」から、他社の船を組み立てる「製造請負」へと役割を転換します。本記事では、この事業転換の詳細と、日本造船業が直面する課題、そして政府の支援策について解説します。

住友重機械の造船撤退と方針転換

120年超の歴史に幕を下ろすはずだった

住友重機械工業は2024年2月、100%子会社の住友重機械マリンエンジニアリングが手がける一般商船の新造船事業から撤退することを発表しました。横須賀造船所は1897年に浦賀船渠として創業して以来、127年にわたり事業を営んできた由緒ある造船所です。

撤退の理由は国内造船需要の低迷と赤字の継続でした。同事業の2023年12月期の売上高は195億円。住友重機械グループ全体の売上高約1兆円からすれば小さな比率ですが、祖業の一つである造船からの撤退は大きな決断でした。当初は受注を停止し、2026年で商船建造を終える計画でした。

洋上風力から造船受託へ方針転換

撤退発表後、住友重機械は横須賀造船所の設備を浮体式洋上風力発電の基礎構造物製造に活用する計画を立てていました。同造船所は300トン吊りのゴライアスクレーン2基を備えており、大型構造物の製造に適した設備を持っています。

しかし、洋上風力市場の立ち上がりが想定より遅れる中で、今治造船からの打診がありました。造船設備をすぐに有効活用でき、かつ技術者の雇用も維持できるこの提案を、住友重機械は受け入れることになりました。

「船として受注したのではない」

住友重機械の広報は「造船から撤退する方向は変わらない」と説明しています。今回の協業は、住友重機械が自社ブランドで船を建造・販売するものではありません。今治造船が受注した船の船体部分を、横須賀造船所で製造するという形態です。いわば「OEM生産」に近い位置づけで、船の設計や営業、最終引き渡しは今治造船が担います。

今治造船:日本最大手の造船会社

国内シェア3割超、世界6位の実力

今治造船は愛媛県今治市に本社を置く日本最大の造船会社です。新造船建造量で2001年に初めて国内トップに立ち、2003年以降は20年以上連続で首位を維持しています。国内シェアは約35%で、日本で建造される商船の3隻に1隻が「IMAZO」ブランドです。

2025年3月期の売上高は4,646億円、竣工量は68隻・308万総トンに達しました。内訳はばら積み貨物船53隻、コンテナ船11隻、自動車運搬船4隻。受注残は82隻・420万総トンで、約4年分の工事量を抱えています。

JMU子会社化で世界4位へ

2025年6月、今治造船はジャパンマリンユナイテッド(JMU)の株式を追加取得し、議決権比率を30%から60%に引き上げました。これによりJMUを実質的に子会社化し、年間建造量は500万総トン超、国内シェアは5割に達しました。世界ランキングでも4位の規模となっています。

今治造船の成長を支えてきたのは、瀬戸内地域を中心とした戦略的なM&Aです。1979年から2018年にかけて、岩城造船、しまなみ造船、多度津造船、新笠戸ドック、幸陽船渠など複数の中堅造船所を傘下に収め、生産基盤を拡充してきました。

住友重機械との協業の意義

今治造船にとって、横須賀造船所との協業は生産能力の拡大を意味します。同社は四国・瀬戸内を中心に10か所の造船所を運営していますが、関東圏には拠点がありませんでした。横須賀は東京湾に位置し、部品調達や人材確保の面でもメリットがあります。

受託するのはアフラマックス型と呼ばれる10万重量トン級のタンカーです。横須賀造船所はピーク時に年間9隻を竣工した実績があり、トヨタ生産方式を導入して生産性を高めてきた技術力が評価されました。

政府の造船業再生戦略

建造量を2035年に倍増する目標

政府は日本の造船業について、2035年に建造量を現在の約2倍となる1,800万総トンに引き上げる目標を掲げています。2024年11月の総合経済対策では、官民で造船業に1兆円規模を投資すると盛り込まれました。

日本の造船業は世界シェアが2004年の36%から2024年には13%に低下し、中国、韓国に次ぐ世界3位に後退しています。中韓両国では政府が手厚い支援を行っており、日本も競争力回復のために本格的な支援に乗り出しました。

造船業再生ロードマップ

政府は2025年12月26日に「造船業再生ロードマップ」を公表しました。2035年に向けて3段階で、総額3,500億円規模の基金により設備投資を支援します。業界の再編も促進し、2028年頃には1〜3程度のグループに集約することを目指しています。

日本造船工業会も民間の借り入れを含め3,500億円を投じる方針を示しており、官民合わせて7,000億円規模の投資が計画されています。同工業会の檜垣幸人会長(今治造船社長)は「世界シェア2割へ業界で協力する」と表明しています。

横須賀造船所の役割

このロードマップにおいて、横須賀造船所は重要なピースの一つです。国内の造船能力を増強するには、既存設備の有効活用が欠かせません。撤退予定だった横須賀造船所が今治造船との協業で存続することは、政府目標の達成に貢献します。

住友重機械は「黒子」として日本の造船業を下支えする役割を担うことになりました。自社ブランドでの船舶販売からは撤退しても、培ってきた技術と設備は国内造船能力の一翼を担い続けます。

洋上風力事業との両立

浮体式洋上風力の市場展望

住友重機械が当初計画していた浮体式洋上風力発電事業も、今後の有望市場です。政府は「洋上風力産業ビジョン」に基づき、2030年までに洋上風力10GW、2040年までに30〜45GWの案件形成を目指しています。2025年8月の「洋上風力産業ビジョン(第2次)」では、2040年までに15GW以上の浮体式洋上風力の案件形成目標が設定されました。

世界市場では、浮体式洋上風力発電は2024年の36.8億ドルから2030年には97.9億ドルに成長すると予測されています。日本は周囲を海に囲まれ、遠浅の海が少ないため、着床式より浮体式に適した地形です。

造船技術の転用

浮体式洋上風力の基礎構造物製造には、造船の技術と設備が活用できます。大型の鋼製構造物を組み立て、海上に浮かべるという点で、両者の技術は共通しています。横須賀造船所のゴライアスクレーンや大型ドックは、将来的に洋上風力設備の製造にも使用できます。

住友重機械は造船受託と洋上風力の両方を視野に入れた事業運営を行う方針です。市場環境に応じて柔軟にリソースを配分し、設備稼働率を維持する戦略といえます。

今後の展望と注意点

経済安全保障の観点

造船業は経済安全保障の観点からも重要な産業です。日本は貿易の99%以上を海上輸送に依存しており、船舶の安定供給は国家の基盤に関わります。建造能力が海外に過度に依存すると、地政学リスクが高まります。

政府が造船業の再生に本腰を入れる背景には、こうした安全保障上の考慮もあります。国内建造能力を維持・拡大し、日本の船主の需要を国内でまかなえる体制を整えることが目標です。

人材確保の課題

造船業界が直面する最大の課題の一つが人材確保です。技能者の高齢化が進み、若手の確保が困難になっています。横須賀造船所の技術者が今治造船との協業で仕事を継続できることは、技能の継承という点でも意義があります。

ただし、長期的には自動化・省力化技術の導入や、魅力ある職場づくりによる人材確保が不可欠です。政府の支援策には、こうした人材面の施策も含まれています。

まとめ

住友重機械工業と今治造船の協業は、日本の造船業界にとって新しいビジネスモデルの可能性を示しています。撤退予定だった横須賀造船所が「黒子」として存続することで、国内建造能力の維持に貢献します。

政府は2035年に建造量を倍増させる目標を掲げ、官民で1兆円規模の投資を計画しています。今治造船のJMU子会社化に続き、業界再編と能力増強が進む中、横須賀造船所の活用は重要な一手です。造船と洋上風力の両面で設備を活かす住友重機械の戦略は、変化する市場に対応する現実的なアプローチといえるでしょう。

参考資料:

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