ヤマトHD新社長に桜井氏就任、宅配事業の再建に着手
はじめに
ヤマトホールディングス(HD)は2026年1月22日、中核子会社であるヤマト運輸の桜井敏之常務執行役員(51)が社長に就任する人事を発表しました。約7年ぶりのトップ交代となります。
宅急便サービスの開始から50年を迎えた同社ですが、2025年3月期には営業赤字に転落しました。人件費や輸送コストの上昇が収益を圧迫するなか、新社長の下で宅配事業の立て直しが急務となっています。本記事では、ヤマト運輸が直面する課題と、今後の経営戦略について解説します。
ヤマトHDの経営課題
営業赤字への転落
ヤマトホールディングスの業績は厳しい状況が続いています。2025年3月期第2四半期の連結業績は、売上高が前年同期比3.0%減の8404億円、営業損失は150億円(前期は123億円の黒字)でした。3年連続の最終赤字という深刻な事態に陥っています。
2026年3月期4〜9月期も、営業収益は前年同期比8%増の9067億円と回復傾向を見せたものの、営業損益は37億円の赤字となりました。値上げ交渉を進めて法人単価が上がったものの、人件費や委託費の上昇を補えていません。
コスト上昇の「元凶」
赤字の主な原因は、複数のコスト要因が重なったことにあります。外部環境の変化による時給単価の上昇、パートナー企業への委託単価の上昇が継続しています。積載効率の低下による輸送領域のオペレーティングコストも増加しました。
さらに、中期経営計画の戦略遂行に伴う先行費用、集配拠点の再配置などネットワーク投資もコスト増につながっています。収益構造を見直すための投資が、短期的には利益を圧迫する構図となっています。
個人向け需要の低迷
新型コロナ禍に伴う巣ごもり消費の反動や物価高で、個人向け宅配便の需要が低迷しています。主力の宅配便3商品(宅急便・宅急便コンパクト・EAZY)の取扱個数は3.5%増の9億4417万個と前年を上回りましたが、比較的単価が高いリテール領域での取扱個数が減少しました。
宅急便の年間取扱個数は23億5千万個に達していますが、単価の低い法人向けの比率が高まることで、収益性が悪化しています。
新社長・桜井敏之氏の経歴と方針
価格戦略を担ってきた人物
桜井敏之氏は慶應義塾大学法学部卒業後、1998年にヤマト運輸(現ヤマトHD)に入社しました。宅配便を統括し、価格戦略を担ってきた人物です。2025年4月にヤマト運輸常務執行役員に就任し、51歳での社長昇格となります。
桜井氏は記者会見で「持続的な成長軌道に乗せることが至上命題だ」と述べ、宅配事業の立て直しへの決意を示しました。
法人向け物流強化の方針
新社長は事業環境について「小型荷物は増えるが、市場そのものは伸びていくわけではない」と冷静に分析しています。その上で、国内外での法人向け物流業務を強化する方針を示しました。
宅配便依存からの脱却を図りながら、法人向けの総合物流サービスを拡充していく戦略と見られます。
宅配便業界の競争環境
大手3社の値上げラッシュ
宅配便業界では、大手3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)による値上げが相次いでいます。ヤマト運輸は2025年10月から「宅急便」の運賃を平均3.5%値上げしました。2024年4月以来の値上げとなります。
佐川急便と日本郵便も2024年4月に基本運賃を引き上げており、業界全体で物流コストの上昇分を価格に転嫁する動きが広がっています。
EC物流の課題
EC市場の急拡大は宅配便業界にとってビジネスチャンスである一方、物流体制には大きな負荷がかかっています。宅配物の数は2006年時点で約29.4億個(年間)でしたが、2021年時点では約49.5億個と約1.7倍に増加しました。
再配達率は約12%に達しており、現場のドライバーにとって大きな負担となっています。「2024年問題」に伴うドライバー不足も深刻で、「送料無料の限界」「配送コストの年々増加」といったEC物流特有の課題が、企業の利益率と競争力を大きく左右しています。
競争激化と差別化
これまでは60サイズの料金で佐川急便が3社中最安値でしたが、度重なる価格改定の結果、その座を日本郵便に明け渡しました。配送会社を検討し直すEC事業者も増えています。
一方で、ECにおいては商品力や価格だけでは差別化が難しくなるなか、物流スピードそのものが「選ばれる理由」となるケースが増えています。料金だけでなく、納期・商品品質維持・正確性といった物流品質の重要性が高まっています。
ヤマト運輸の再建戦略
値上げによる収益改善
ヤマトHDは通期で営業利益400億円(前期比約2.82倍)を予想しています。そのカギとなるのが値上げです。法人向けの値上げ交渉を進めながら、個人向けでも単価の向上を図っています。
高単価の個人向け拡大
新体制下では、高単価の個人向けサービスの拡大が重要な戦略となります。単価の低い法人向け大口取引への依存を減らし、付加価値の高いサービスで収益性を改善する方針です。
経営資源の集中
前社長の長尾裕氏の下では、メール便などの投函サービスを日本郵政に委託することで、宅急便という強みに経営資源を集中させる方針を進めてきました。桜井新社長はこの路線を継承しながら、さらなる効率化と収益改善を進めていくと見られます。
注意点と今後の展望
人件費上昇は続く
物流業界全体で人手不足が深刻化するなか、人件費や委託費の上昇傾向は今後も続くと予想されます。値上げによる収益改善が、コスト上昇を上回れるかが焦点となります。
EC事業者への影響
宅配便の値上げラッシュは、EC事業者の経営にも大きな影響を与えます。「送料」が売上のボトルネックとなる可能性があり、宅配事業者の選定や物流戦略の見直しを迫られる事業者が増えるでしょう。
業界再編の可能性
物流業界では、コスト上昇と競争激化を背景に、業界再編や協業の動きが加速する可能性があります。ヤマト運輸と日本郵政の投函サービス委託のような、競合他社との協業モデルが今後も広がるかもしれません。
まとめ
ヤマトホールディングスは7年ぶりの社長交代で、宅配事業の立て直しに本格的に着手します。桜井新社長は価格戦略を担ってきた経験を活かし、値上げと高単価サービスの拡大で収益改善を目指します。
宅急便50周年を迎えた同社ですが、人件費上昇や個人向け需要の低迷といった課題に直面しています。法人向け物流の強化や経営資源の集中といった戦略が、業績回復につながるかが注目されます。
物流業界全体が「2024年問題」やコスト上昇に苦しむなか、業界最大手であるヤマト運輸の動向は、宅配便サービスの将来を占う試金石となるでしょう。
参考資料:
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