ヤマトHD、51歳新社長に託す宅配事業の立て直し
はじめに
ヤマトホールディングス(HD)は2026年1月22日、中核子会社であるヤマト運輸の桜井敏之・常務執行役員(51)が社長に就任する人事を発表しました。4月1日付で就任し、長尾裕社長は代表権のある会長に移ります。社長交代は7年ぶりです。
「宅急便」がサービス開始から半世紀を迎えた節目に、営業赤字に陥った宅配事業の立て直しという重責を担うことになりました。価格戦略を担ってきた桜井氏の手腕が問われます。
桜井敏之新社長のプロフィール
経歴と実績
桜井敏之氏は1974年生まれ、福岡県出身。慶應義塾大学法学部を卒業後、1998年にヤマト運輸(現ヤマトHD)に入社しました。2025年4月にヤマト運輸常務執行役員に就任し、宅配便部門を統括してきました。
特に価格戦略を担当し、宅配便の運賃適正化に取り組んできた実績があります。51歳という若さでの社長就任は、変革期にある同社が新しい発想とリーダーシップを求めた結果といえます。
就任会見での発言
同日、東京都内で開いた記者会見において、桜井氏は「持続的な成長軌道に乗せることが至上命題だ」と意気込みを語りました。事業環境については「小型荷物は増えるが、市場そのものは伸びていくわけではない」と冷静に分析し、国内外での法人向け物流業務を強化する方針を示しました。
宅急便50周年の節目に
半世紀の歴史
ヤマト運輸の「宅急便」は2026年1月20日、サービス開始から50周年を迎えました。1976年の発売初日、取扱荷物はわずか11個でした。それが現在では年間23億個もの荷物を取り扱う、日本の生活インフラへと成長しています。
「電話1本で集荷、翌日配達」というコンセプトでスタートした宅急便は、時代とともに進化を続けてきました。1988年の「クール宅急便」開始で産地直送を可能にし、1998年にはオンライン問い合わせに対応。2007年には受け取り時間・場所をネットで指定できる「クロネコメンバーズ」を開始するなど、常に利便性を追求してきました。
変化した顧客構成
サービス開始当初は個人間(CtoC)取引を想定していましたが、EC(電子商取引)の急速な普及により、現在では荷物の発送の約9割が法人からの受託となっています。宅配便市場の5割弱ものシェアを握るヤマト運輸ですが、この構造変化が新たな課題を生んでいます。
営業赤字に陥った背景
2025年3月期の業績
2025年3月期の連結業績は、売上高が前期比0.2%増の1兆7626億円となりましたが、営業利益は64.5%減の142億円と大幅な減益となりました。特に上期(2024年4~9月)は営業損益が150億円の赤字に転落。上期の赤字計上は2018年以来のことでした。
苦戦の要因
赤字転落の主な要因は2つあります。
1つ目は、荷物の量を確保するための値下げ戦略です。宅配便の個数は9.4億個(前年同期比3.5%増)と増加しましたが、採算性が犠牲になりました。
2つ目は、比較的単価が高いリテール領域(個人・小口法人)での取扱個数減少です。ネコポスなど投函サービスの日本郵便への委託が進み、運送収入が落ち込みました。
業界全体の課題
物流業界はEC拡大で需要が伸びる一方、人手不足で輸送網の危機に直面しています。「2024年問題」と呼ばれる残業規制強化の影響も加わり、ドライバー確保と労働環境改善の両立が求められています。
立て直しの戦略
プライシングの適正化
新経営体制の最優先課題は、価格戦略の見直しです。2026年3月期は、プライシングの適正化に注力することで、営業利益を前期比約2.8倍の400億円に引き上げる計画です。
ヤマト運輸は2025年10月から「宅急便」の運賃を平均3.5%値上げしており、26年3月期通期では宅配便の平均単価が前期比2.5%増となる見通しです。量から質への転換が求められています。
法人向け物流の強化
桜井新社長は「市場そのものは伸びていくわけではない」との認識のもと、国内外での法人向け物流業務を強化する方針を示しています。EC企業との長期契約や、サプライチェーン全体を支援するソリューション提案など、付加価値の高いサービスへのシフトを目指します。
「宅急便+α」戦略
ヤマト運輸は宅急便を磨きつつ、少子高齢化や法人需要開拓を背景にした新サービスの創出、いわゆる「宅急便+α(アルファ)」戦略を展開しています。高齢者向けの見守りサービスや、地域の買い物支援など、物流を起点とした新たな価値創造を模索しています。
長距離輸送の自前強化
外国人材を活用して長距離輸送の一部を自前で強化する方針も打ち出しています。人手不足が深刻化する中、輸送網の安定確保は競争力の源泉となります。
注意点・今後の展望
競合との競争激化
宅配便市場では、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスや日本郵便との競争が激化しています。Amazonのような大手EC事業者が自前の配送網を整備する動きも、宅配便事業者の収益を圧迫しています。
収益性と量のバランス
値上げによる収益改善を進める一方で、荷物量の減少リスクもあります。価格と量のバランスをいかに取るかが、桜井新社長の手腕の見せどころとなります。
まとめ
ヤマトHDは宅急便50周年という節目に、51歳の桜井敏之氏を新社長に起用しました。営業赤字からの立て直しと、宅配事業への過度な依存からの脱却が求められています。
価格戦略の専門家として、プライシングの適正化や法人向け物流の強化に取り組む桜井新社長。「持続的な成長軌道に乗せる」という至上命題の達成に向けた舵取りが注目されます。
参考資料:
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