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by nicoxz

ASML半導体後工程に参入、先端パッケージ露光装置市場の競争激化

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はじめに

半導体製造装置業界に大きな変化が起きています。EUV(極端紫外線)露光装置で世界シェア100%を誇るASMLホールディング(オランダ)が、これまでキヤノンがほぼ独占してきた半導体「後工程」向け露光装置市場に本格参入しました。

半導体の製造プロセスは、ウエハー上に回路を形成する「前工程」と、チップを切り出して基板に実装する「後工程」に大別されます。AI向け半導体の高性能化には、複数のチップを高密度で接続する先端パッケージング技術が不可欠となっており、後工程の重要性が急速に高まっています。

この記事では、ASMLの後工程参入の背景と技術的特徴、キヤノン・ニコンを含めた競争構図、そしてAI時代における半導体パッケージング市場の展望について解説します。

ASMLの後工程向け新型露光装置「TWINSCAN XT:260」

革新的な仕様と性能

ASMLは2025年第3四半期決算発表時に、後工程向け露光装置「TWINSCAN XT:260」の初出荷を発表しました。この装置は、先端パッケージング専用に設計された業界初のリソグラフィスキャナーです。

主な仕様は以下の通りです。波長365ナノメートルのi線リソグラフィを採用し、約400ナノメートルの解像度を実現しています。特筆すべきは、1時間あたり最大270枚のウエハーを処理できるスループットで、既存の先端パッケージング用露光システムの約4倍の生産性を達成しています。

また、52mm×66mmの画像フィールドにより、最大3,432平方ミリメートルのインターポーザー(EUVレチクルサイズの4倍)をフィールドスティッチングなしで処理できます。これにより、複雑な工程を削減し、生産サイクルを短縮できるのが大きな利点です。

前工程技術の後工程への応用

ASMLのクリストフ・フーケCEOは「前工程リソグラフィで培った知識と技術を活用し、後工程にもイノベーションと効率性をもたらすことができる」と述べています。

同社が前工程で圧倒的な技術力を持つことは周知の事実です。EUV露光装置市場では100%のシェアを持ち、最新のハイNA EUV装置「TWINSCAN EXE:5200B」は1時間に175枚の300mmウエハーを処理する能力を持ちます。この技術的優位性を後工程でも発揮しようという戦略です。

キヤノンの圧倒的シェアと対応策

後工程向けi線露光装置で8割のシェア

キヤノンは半導体後工程向け露光装置市場で圧倒的な地位を築いています。特にi線露光装置では2024年時点で世界シェア74.6%を獲得しており、2023年の62.4%からさらにシェアを拡大しました。先端パッケージ向けに限れば、台数ベースでほぼ100%のシェアを持つとも言われています。

生成AI向けで複数の半導体を組み合わせて1つの大型チップのように動作させる先端パッケージの需要が急増しており、キヤノンの後工程向け露光装置販売は2020年から2025年の間に4倍に伸びています。

生産能力の大幅増強

この好調な需要に対応するため、キヤノンは積極的な投資を進めています。2025年度には後工程向けi線露光装置の生産台数を最大80台規模まで拡大し、2024年度比で倍増させる計画です。

さらに、2025年9月から宇都宮市で半導体露光装置の新工場を稼働させます。総投資額は約500億円で、この新工場により露光装置の生産能力は2021年比で2倍に高まります。

ニコンの後工程市場への挑戦

初の後工程向け露光装置「DSP-100」

ニコンも後工程市場に参入します。2025年7月、同社初の半導体後工程向け露光装置「DSP-100」の受注開始を発表しました。2026年度中の市場投入を予定しています。

DSP-100の特徴は、L/S(ライン/スペース)1.0マイクロメートルという高解像度と、1時間あたり50パネルという高生産性を両立している点です。さらに600mm角の大型基板に対応しており、パネルレベルパッケージの需要拡大に応えます。

マスクレス露光技術の採用

ニコンの最大の差別化ポイントは「デジタル露光(マスクレス露光)」の採用です。従来の露光装置では回路パターンの原版となるフォトマスクが必要ですが、DSP-100はマスクなしで配線パターンを露光できます。

これにより、フォトマスクの製造コストや納期を削減できるメリットがあります。ニコンは半導体露光装置で培った高解像度技術と、フラットパネルディスプレー(FPD)向け露光装置の「マルチレンズテクノロジー」を融合させています。

マスクレス露光装置の分野では、ウシオ電機と米アプライドマテリアルズの提携製品やオーク製作所なども参入していますが、ニコンはパネル寸法や解像度、処理速度での差異化を狙っています。

AI時代における後工程の重要性

前工程の微細化限界と後工程へのシフト

半導体性能はこれまで前工程での回路微細化によって向上してきました。しかし、物理的限界に近づくにつれ、微細化のペースは鈍化しています。

そこで注目されているのが後工程の技術革新です。画像処理半導体(GPU)や高帯域幅メモリ(HBM)など複数のチップを高密度で接続する「先端パッケージング」が、性能向上の新たな鍵となっています。

NVIDIAのAI向けGPUなどでは、ロジックチップとHBMを中間基板(インターポーザー)上に配置し、高速で接続する技術が使われています。この中間基板に回路を形成する工程で、キヤノンの露光装置が活躍しているのです。

市場規模の急拡大

SEMIの予測によると、2025年の半導体製造装置市場は1,255億ドルに達し、過去最高を更新する見込みです。2026年にはさらに1,381億ドルまで成長すると予測されています。

特に後工程装置の成長が顕著です。組立およびパッケージング装置の売上高は2024年に前年比25.4%増加し、2025年にはさらに7.7%増の54億ドル、2026年には15%増と3年連続の成長が見込まれています。この成長を牽引しているのは、AIおよびHBM向け半導体の厳しい性能要件です。

半導体パッケージング市場全体では、2025年の498.8億ドルから2030年には812.2億ドルへと、年平均10.24%の成長が予測されています。

注意点・今後の展望

技術の導入には時間が必要

ASMLの新型装置は革新的ですが、Intel、Samsung、TSMCなどの半導体メーカーや、ASE、Amkor、JCETなどのOSAT(後工程専業会社)がこの装置を製造プロセスに統合するには一定の時間がかかります。

また、装置の価格や運用コスト、既存設備との互換性なども導入判断の重要な要素となります。キヤノンの装置が長年使われてきた実績と、顧客との関係性は簡単には覆らない可能性もあります。

日本メーカーの競争力

キヤノンは後工程で圧倒的な地位を築いていますが、ASMLという強力な競合の参入により、技術革新の加速が求められます。一方、ニコンはマスクレス露光という差別化技術で市場参入を図りますが、後発としてシェア獲得には課題も多いでしょう。

前工程ではASMLに大きく差をつけられた日本メーカーですが、後工程では異なる競争構図が生まれる可能性があります。各社の技術開発と市場戦略の動向が注目されます。

まとめ

ASMLの半導体後工程市場への参入は、AI時代の半導体産業における大きな転換点です。前工程の微細化が限界に近づく中、先端パッケージングの重要性が高まっており、露光装置メーカー各社がこの成長市場を狙っています。

キヤノンは約8割のシェアを持つ強固な地位を守りつつ生産能力を倍増させ、ニコンはマスクレス露光技術で差別化を図ります。ASMLは前工程での技術的優位性を後工程にも展開しようとしています。

AI向け半導体需要の拡大を背景に、後工程向け露光装置市場は今後も高成長が続く見込みです。この競争の行方は、半導体産業全体の発展にも大きな影響を与えるでしょう。

参考資料:

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