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by nicoxz

セル生産方式とは:御手洗冨士夫が学んだ革新的製造システムの仕組み

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はじめに

1997年の夏、キヤノン社長の御手洗冨士夫氏は千葉県にあるソニーの工場を訪れていました。当時、キヤノンは本体の稼ぐ力をどう再生するかという課題に直面しており、周辺機器事業本部長から「セル生産という方式があります」という情報を得たことがきっかけでした。

「自分の目で見ないと納得できない」という御手洗氏は、成功事例を見学するため、家庭用ゲーム機を組み立てていたソニーの工場に足を運んだのです。この訪問が、キヤノンの生産革命の始まりとなりました。

この記事では、日本の製造業に大きな影響を与えたセル生産方式の仕組みと特徴、そしてその導入背景を解説します。

セル生産方式とは何か

基本的な仕組み

セル生産方式とは、1人または少数の作業者チームで製品の組み立て工程を完成(または検査)まで行う生産方式です。従来のライン生産方式と比較して、作業者一人が受け持つ範囲が広いのが特徴です。

「セル(cell)」という名称は、作業者の周囲に組付工具や部品、作業台が「コ」の字型に囲む様子を細胞に見立てたことに由来します。特に、1人の作業者で製品を完成させる方式を、作業台を屋台に見立てて「1人屋台生産方式」とも呼びます。

ライン生産方式との違い

セル生産方式とライン生産方式の主な違いは以下の通りです。

項目セル生産方式ライン生産方式
作業形態1人または少人数で完成まで担当複数人が流れ作業で分担
適した生産多品種少量生産少品種大量生産
レイアウトU字型、L字型などの配置直線状のベルトコンベア
作業者多能工が必要単一作業の担当
柔軟性高い低い

ライン生産方式では1人の作業者が担当するのは基本的にひとつの作業ですが、セル生産方式では1人で複数の作業を担当します。ベルトコンベアによる流れ作業を廃し、作業者が適宜移動しながら組立を完遂するのが大きな違いです。

セル生産方式のメリット

多品種少量生産への対応

セル生産方式はセルごとに独立しているため、各セルで異なる品目を生産できます。生産品目を変える際には一部のセルのみ生産を停止して段取り替えを行えることから、効率よく多品種少量生産に対応できます。

現代の製造業では、顧客ニーズの多様化により、同じ製品を大量に作るよりも、多くの種類を少量ずつ作る場面が増えています。セル生産方式はこのトレンドに適合しています。

生産変動への柔軟な対応

セルごとに稼働できるセル生産方式は、生産量に合わせて稼働するセル数を調整できます。需要が減れば稼働セルを減らし、増えれば増やすという柔軟な対応が可能です。

ライン生産方式では、ライン全体を止めるか動かすかの二択になりがちですが、セル生産方式では細かな調整ができます。

仕掛在庫とリードタイムの削減

セル内で組立が完結するため、工程間の仕掛り在庫が大幅に削減されます。これにより製造リードタイム(生産に要する時間)も短縮でき、キャッシュフローの改善にもつながります。

初期コストの抑制

セル生産方式では、大規模な設備投資が不要なため、初期コストを抑えられます。主に手作業で対応できるため、大型の機械設備への投資を抑えることが可能です。

ベルトコンベアなどの大型設備が不要で、工具と作業台を中心としたシンプルな構成で始められます。

作業者のモチベーション向上

完成までを一貫して受け持つため、作業者には責任感と達成感が芽生えます。自分が作った製品という意識が品質向上にもつながります。

ライン生産では「ねじを締めるだけ」「部品を付けるだけ」という単調な作業になりがちですが、セル生産では製品全体を理解した上で作業するため、やりがいを感じやすい環境になります。

セル生産方式のデメリット

高いスキルが必要

セル生産方式を実現するには「作業者が高いスキルレベルを有した集団である」という大前提があります。この前提がない場合、生産量と品質が作業者のスキルに依存するため、作業者間での生産量の差が極端に大きくなります。

「多能工」と呼ばれる、複数の工程をこなせる作業者の育成が必須となります。

教育コストの増加

セル生産方式は作業員の「多能工化」が前提となるため、従業員の新人教育に多くの時間がかかります。一人の作業者が担当する範囲が広い分、習得すべきスキルも多くなります。

短期間で戦力化することが難しく、人材育成への投資が必要です。

作業者への依存度が高い

熟練した作業者が退職した場合、その穴を埋めることが困難です。また、作業者の体調や集中力によって生産性にばらつきが出る可能性があります。

御手洗冨士夫とキヤノンへの導入

経営改革の必要性

1995年、御手洗冨士夫氏がキヤノン株式会社代表取締役社長に就任しました。当時のキヤノンは8,400億円を超える負債を抱えており、財務体質の改善が急務でした。

御手洗氏はアメリカでの23年間の勤務経験を活かし、アメリカ仕込みの合理的経営をキヤノンに持ち込みました。「終身雇用の実力主義」を掲げ、日本流の終身雇用による結束力と、米国流の競争による個人の力を引き出す経営の両立を目指しました。

「選択と集中」と生産革新

御手洗氏は事業の「選択と集中」を掲げ、液晶ディスプレイや光ディスク、パーソナルコンピュータ事業から撤退しました。代わりに、利益率の高いプリンター、カメラ、半導体製造装置等に経営資源を集中させました。

次に着手したのが生産革新です。生産性の高いセル生産方式をキヤノンに導入し、コスト構造を抜本的に変革しました。サプライチェーンマネジメントの導入や工場の無人化も推進しました。

ソニー工場訪問のエピソード

1997年夏、御手洗氏は千葉県にあるソニーの工場を訪問しました。当時、ソニーは家庭用ゲーム機をセル生産方式で組み立てており、その現場を自らの目で確認したのです。

「面白そうな話だったが、自分の目で見ないと納得できない」という御手洗氏の姿勢が、この訪問につながりました。現場主義を重視する経営者ならではの行動です。

改革の成果

御手洗氏の経営改革は大きな成果を上げました。第一期社長時代(1995年〜2006年)に、8,400億円を超える負債を事実上完済し、日本有数のキャッシュフローを持つ企業にまで財務体質を改善しました。

営業利益率などの経営指標も製造業トップクラスにまで押し上げ、キヤノンは「高収益企業」として知られるようになりました。

導入事例と適した業種

積極的に導入している業界

セル生産方式は以下の業界で積極的に導入されています。

  • 情報機器メーカー: キヤノン、ソニーなど
  • 家電メーカー: 多品種の家電製品
  • 自動車部品: サプライヤー企業
  • 工作機械: 精密機器の組立
  • 化粧品製造業: 最近では化粧品でも採用

具体的な製品例

  • ソニーのPC「VAIOシリーズ」
  • キヤノンの一眼レフカメラ、ビデオカメラ、映像製作機器、レンズ

これらの製品は、多品種かつ高い品質が求められる製品であり、セル生産方式の特性と合致しています。

最新トレンド:ダイナミックセル生産方式

技術との融合

セル生産方式の課題やデメリットを解消するために、最新技術を導入した「ダイナミックセル生産方式」が登場しています。

各セルごとにIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)、ロボットなどを配置し、クラウド上で接続することで、製品ごとのリアルタイムな工程変更やラインの組み換えを可能にします。

人とロボットの協働

従来のセル生産方式では作業者のスキルに依存する課題がありましたが、ダイナミックセル生産方式ではロボットが補助することで、作業者のスキル差を吸収できます。

また、AIによる工程管理により、最適な作業順序の提案や品質チェックの自動化も実現しています。

まとめ

セル生産方式は、1人または少人数で製品を完成まで組み立てる生産方式です。多品種少量生産に適し、柔軟性が高いことが特徴です。

キヤノンの御手洗冨士夫氏は、1997年にソニーの工場を訪問してセル生産方式を学び、キヤノンに導入しました。この生産革新は、キヤノンの収益性向上に大きく貢献しました。

セル生産方式の主なポイントは以下の通りです。

  • メリット: 多品種少量生産への対応、柔軟性、在庫削減、モチベーション向上
  • デメリット: 高いスキルが必要、教育コスト増、作業者への依存
  • 適した業種: 精密機器、カメラ、家電、自動車部品など

現代では、IoTやAIを活用した「ダイナミックセル生産方式」への進化も進んでいます。製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、セル生産方式は引き続き重要な生産方式として位置づけられています。

参考資料:

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