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by nicoxz

特別休暇は増えても年休は未消化、日本企業の休み方の矛盾

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はじめに

病気治療やリスキリング(学び直し)のための特別休暇を導入する企業が増えています。人材の定着や生産性向上につなげる狙いがあり、政府も推奨しています。

しかし、日本は本来リフレッシュに充てられるはずの年次有給休暇(年休)の取得率が海外と比べて依然として低い状況です。特別休暇を新たに設けても、基本の年休すら消化しきれない「休み下手」の構造は変わっていません。休みやすさと生産性の両立に向けた議論を整理します。

年次有給休暇の取得率:過去最高でも世界最低

日本の最新データ

厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、2023年の年次有給休暇の平均取得率は65.3%で、前年の62.1%を上回り1984年以降で過去最高を記録しました。取得日数は平均11.0日です。政府が掲げる「2025年までに取得率70%」という目標に近づいてはいます。

海外との大きな差

エクスペディアの国際比較調査では、日本の有給休暇取得率は63%で世界11地域中最下位でした。日本の次に低いニュージーランドでも86%であり、差は歴然としています。

取得日数を見ても、フランスの29日、香港の28日、ドイツの27日に対して日本は12日と大きく下回っています。有給休暇を取得できない理由として最も多いのは「人手不足など仕事の都合上、取得が難しいため」(32%)で、次いで「緊急時に取っておくため」(31%)でした。

祝日を含めた見方

日本の祝祭日は年間15日で世界3位の多さです。夏季休暇・年末年始休暇を加えると23日、有給取得日数10日を含めると年間33日となり、総休日数では国際的に遜色ないとの見方もあります。ただし、有給休暇を「自分の意思で自由に使える日」として考えると、やはり日本は少ないといえます。

多様化する特別休暇

病気療養休暇の導入

治療と仕事を両立する労働者を支援するため、病気療養のための特別休暇を導入する企業が増えています。厚生労働省の調査では、民間企業の23.3%が病気休暇を導入しており、大企業ほど導入率が高い傾向があります。

病気休暇は年次有給休暇とは別に取得できる法定外の特別休暇です。がん治療のための通院や、更年期障害への対応など、従来は退職につながりがちだった健康課題に対して、就業継続を可能にする制度として注目されています。

リスキリング休暇の広がり

学び直しのための休暇制度も広がっています。JT(日本たばこ産業)は2025年10月から更年期休暇を導入するなど、従業員の多様なニーズに対応した休暇制度を整備する企業が増えています。

国の制度面でも大きな動きがあります。2025年10月からスタートした「教育訓練休暇給付金」制度では、雇用保険に5年以上加入している労働者が30日以上の無給教育訓練休暇を取得した場合、賃金の約5〜8割が最大150日まで給付されます。リスキリングのための休暇取得を経済的に支援する画期的な仕組みです。

企業の狙い

企業が特別休暇を充実させる背景には、深刻化する人材不足があります。休暇制度の充実は採用競争力の強化や離職防止につながり、優秀な人材の確保・定着に直結します。また、十分な休息やスキルアップの機会を提供することで、生産性の向上も期待されています。

ちぐはぐな休暇政策の課題

特別休暇と年休の矛盾

新たな特別休暇を設ける一方で、基本の年次有給休暇すら消化しきれていないのが日本企業の現実です。年休が約35%も未消化のまま残っている状況で、特別休暇を追加しても実効性に疑問が残ります。

本来、病気療養やリフレッシュ、学び直しといった多くの目的は、年次有給休暇の枠内で対応できるはずです。年休を使い切ったうえで追加の特別休暇が必要になるのが理想的な姿ですが、実際には年休を残したまま特別休暇を利用するという逆転現象が起きかねません。

「休みにくい文化」の根深さ

取得率が上がらない根本的な原因は、制度の不備ではなく職場の文化にあります。「周囲に迷惑をかける」「上司が取得していない」「評価に影響するのでは」といった心理的なハードルが依然として存在します。

特別休暇であれば「病気治療のため」「リスキリングのため」と明確な理由があるため取得しやすい一方、年次有給休暇は理由を問わない自由な休暇であるがゆえに、かえって取得の心理的障壁が高くなるという皮肉な構造があります。

生産性との関係

休暇の取得促進と生産性の関係についての議論は、まだ十分に深まっていません。OECD加盟国のデータを見ると、労働時間が短い国ほど時間当たりの生産性が高い傾向がありますが、単に休暇を増やすだけでは生産性向上にはつながりません。業務プロセスの効率化や、テクノロジー活用による省力化と一体で進める必要があります。

今後の展望

制度から文化への転換

今後必要なのは、休暇制度の種類を増やすことよりも、年次有給休暇を気兼ねなく取得できる職場文化の醸成です。管理職が率先して休暇を取得する、取得率を組織の評価指標に組み込む、業務の属人化を解消して誰かが休んでも回る体制を作るなど、組織全体での取り組みが求められます。

デジタル化と休暇

DXの推進により、業務の自動化や効率化が進めば、休暇取得のハードルは下がる可能性があります。また、リモートワークの普及により、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が広がっていることも、休暇の取得促進にプラスに働くことが期待されます。

まとめ

特別休暇の拡充は人材確保の観点で有効な施策ですが、年次有給休暇の取得率が世界最低水準にとどまる現状を直視する必要があります。制度を増やすだけでなく、休みやすい職場文化の醸成と、生産性向上の仕組みづくりを一体で進めることが重要です。

2025年10月に始まった教育訓練休暇給付金制度のように、休暇取得を経済的に支援する仕組みも広がりつつあります。「休む=サボる」ではなく「休む=成長の投資」という意識改革が、日本企業の休み方を変える鍵になります。

参考資料:

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