「ありがとう」が給料になる感情報酬、働き方の新潮流

by nicoxz

はじめに

職場で同僚に「ありがとう」と言われたとき、その感謝が実際の給与に上乗せされる仕組みが広がっています。従業員同士で感謝のメッセージとともにポイントを送り合い、そのポイントが円に換算されて給与に加算される「感情報酬」という新しい報酬制度です。

この制度は「ピアボーナス」とも呼ばれ、従来の成果主義や年功序列とは異なる「第3の給与」として注目されています。競争を好まず、意味や納得感を重視するZ世代やα世代が労働市場の中心になりつつある今、感情報酬は働き方の新たな潮流となりつつあります。

感情報酬・ピアボーナスとは何か

仕組みの概要

感情報酬とは、従業員同士が感謝や称賛の気持ちをポイントとして送り合い、そのポイントを金銭的な報酬に変換する制度です。具体的には、毎週または毎月、各従業員に一定数のポイントが配布され、そのポイントを同僚に贈ることができます。

例えば、Unipos(ユニポス)というサービスでは、毎週月曜日に400ポイントが各従業員に支給されます。従業員は「資料作成を手伝ってくれてありがとう」「急な依頼に対応してくれて助かりました」といった感謝のメッセージとともにポイントを送ります。

ポイントの金銭化

送られたポイントは、企業が設定した換算レートに基づいて金銭化されます。多くの企業では1ポイント1〜3円程度に設定されており、毎月の給与やボーナスに反映される仕組みです。

ポイント金額が少額に設定されているのは、金銭目的でのポイント送付を防ぐためです。1回に送れるポイント数にも上限があり、純粋な感謝の気持ちに基づいた運用が促されています。

評価対象の広がり

従来の人事評価では、売上や業績などの数値化しやすい成果が中心でした。しかし感情報酬では、日常的なサポートや気配り、チームへの貢献など、数字に表れにくい行動も評価対象となります。

「他の社員から感謝されるべき行動」を可視化することで、これまで埋もれていた貢献が認められるようになります。

企業の導入事例

メルカリの「メルチップ」

フリマアプリを運営するメルカリでは、「メルチップ」という名称でピアボーナス制度を導入しています。以前から感謝・称賛の気持ちを伝える手書きカードを贈る文化がありましたが、組織の拡大に伴いデジタル化しました。

毎週400Tipが配布され、社内コミュニケーションツールのSlackやUniposを通じてポイントを送り合います。1ポイント=1円換算で、毎月の給与に上乗せして支給されるインセンティブとなっています。

OWNDAYSの「STAPA」

メガネチェーンのOWNDAYS(オンデーズ)は、社内仮想通貨「STAPA(スタパ)」を福利厚生として導入しています。出勤や目標達成に応じてマイルが貯まり、貯まったポイント数に応じて商品や旅行券がもらえる仕組みです。

導入効果の実績

ピアボーナス制度を導入している企業の調査では、「1カ月に81%の従業員が1回以上ポイントをもらっている」という結果が出ています。従来の評価制度では一部の優秀な社員にしか光が当たりませんでしたが、ピアボーナスではより多くの従業員が認められる機会を得ています。

新世代の価値観と感情報酬

競争を好まないZ世代

感情報酬が注目される背景には、Z世代(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)の価値観があります。Z世代は少子化による人口減少世代であり、上の世代のような厳しい競争を経験していません。

調査によると、Z世代の27%が「昇進したくない」と回答しています。その理由として「責任が重くなるから」「プライベートを重視したいから」「仕事量と給料が釣り合わないから」などが挙げられています。

内発的動機を重視

Z世代は金銭や競争といった外発的動機よりも、貢献・成長・やりがいといった内発的動機を重視する傾向があります。単なる収入源としての仕事ではなく、自分の価値観や人生観に合致した仕事を求めています。

感情報酬は、同僚からの「ありがとう」という言葉を可視化し、金銭的な報酬として形にします。競争ではなく協力を促す仕組みであり、新世代の価値観に合致した制度といえます。

α世代の台頭

2010年以降に生まれたα世代は、スマートフォンやAI技術が日常に浸透した環境で育った完全デジタルネイティブです。多様性を重視し、国籍や年齢、ジェンダーにとらわれない考え方を持っています。

α世代が労働市場に本格参入する2030年代に向けて、感情報酬のような新しい報酬制度はさらに重要性を増すと考えられます。

導入の注意点と課題

ポイント配布のルール設計

感情報酬を導入する際は、ポイントの金額設定や配布ルールの設計が重要です。金額が高すぎると金銭目的の不正な送付が起きやすく、低すぎるとインセンティブとしての効果が薄れます。

多くの企業では、1ポイント1〜3円程度の少額設定とし、1回あたりの送付上限や週・月あたりの送付上限を設けることで、適切なバランスを保っています。

マンネリ化の防止

制度導入初期は活発に利用されても、時間が経つと形骸化する恐れがあります。サンクスカードやピアボーナスの運用では、定期的なキャンペーンの実施や、特に多くの感謝を集めた従業員の表彰など、継続的な活性化策が必要です。

既存の評価制度との整合性

感情報酬は従来の人事評価を補完するものであり、置き換えるものではありません。業績評価と感情報酬をどのように組み合わせるかは、各企業の人事制度全体の中で検討する必要があります。

まとめ

従業員同士の感謝をポイント化し、給与に上乗せする感情報酬は、競争よりも協力を重視する新世代の価値観に応える新しい報酬制度です。メルカリやOWNDAYSなど先進的な企業での導入が進み、従業員のエンゲージメント向上や離職防止に効果を上げています。

2025年以降、Z世代とα世代が労働市場の中心となる中、「ありがとう」が給料になる感情報酬は、働き方の新たなスタンダードとなっていく可能性があります。

参考資料:

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