2026年春闘スタート 物価超す賃上げへ正念場
はじめに
2026年の春季労使交渉(春闘)が本格的に始まりました。1月27日、経団連の筒井義信会長と連合の芳野友子会長が会談し、賃上げの方向性について意見を交わしました。両者とも物価上昇を上回る賃上げの実現を目指す点では一致しています。
2025年春闘では平均賃上げ率が5.25%と、1991年以来34年ぶりの高水準を記録しました。この流れを2026年も継続できるかが焦点です。しかし、業績改善が伴わないまま賃上げを続ける「防衛的賃上げ」に疲弊する中小企業も増えており、大企業との格差拡大が懸念されています。
本記事では、2026年春闘の注目ポイントと実質賃金プラス転換への課題を詳しく解説します。
2026年春闘の目標と初動
連合の賃上げ目標
連合は2025年11月の中央委員会で、2026年春闘方針を正式決定しました。賃上げ目標は、定期昇給とベースアップを合わせて「5%以上」、ベア分で「3%以上」となっています。これは2024年、2025年と同じ水準であり、3年連続で高い目標を維持する形です。
連合は「実質賃金を年1%上昇の軌道に乗せる」ことを目指しており、これを「賃上げノルム(当たり前の基準)」として社会に定着させる狙いがあります。名目賃金は44カ月連続でプラスとなっていますが、物価上昇を差し引いた実質賃金は依然としてマイナス圏で推移する月が多く、生活実感としての豊かさ向上には至っていません。
経団連の姿勢
経団連など経済3団体は2026年1月6日の新年祝賀会で、5%を超える賃上げを表明する経営者が相次ぎました。筒井義信会長は「26年はデフレからの真の脱却に向かう年だ。ベースアップを賃金交渉のスタンダードに位置づける」と強調し、「賃金引上げの力強いモメンタム(勢い)をさらに定着させる」と意欲を示しています。
経団連は賃上げを「社会的責務」と位置づけており、先導役を果たす姿勢を明確にしています。政府からも高市首相が昨年までと「遜色ない水準の賃上げ」への協力を経済界に要請しており、官民挙げて賃上げ機運を維持しようとしています。
産業別の賃上げ動向
自動車・金属産業
自動車総連は2025年12月に、2026年春闘のベースアップ要求額を「1万2,000円以上」とする方針を表明しました。金子晃浩会長は「この3年間の物価上昇で生活毀損が激しい」と述べ、高い目標にこだわる姿勢を示しています。
金属労協も同様に1万2,000円以上の賃上げにこだわるとする闘争方針を決定しました。JAMは「賃金構造維持分を確保した上で、所定内賃金の引き上げを中心に1万7,000円以上」を要求しており、2025年闘争より2,000円高い水準を掲げています。
2026年の賃上げ率予測
第一生命経済研究所は2026年の春闘賃上げ率を5.20%と予測しています。連合ベースでは4.95%と、5%台に乗るかは微妙な情勢ですが、歴史的に見れば非常に高い水準が続く見通しです。
一方で、ニッセイ基礎研究所は2026年には賃上げ率が鈍化すると予測しています。2024年・2025年の高い賃上げは物価高への対応という側面が強く、2026年は物価上昇率の鈍化に伴い賃上げ圧力も弱まる可能性があります。
中小企業の価格転嫁が最大の課題
価格転嫁の現状
2026年春闘の成否を左右する最大の課題は、中小企業における価格転嫁です。2025年9月時点の調査では、コスト全般の価格転嫁率は53.5%にとどまっています。労務費の転嫁率は初めて50%に到達しましたが、依然として上昇したコストの半分程度しか価格に反映できていません。
サプライチェーンの階層が深くなるほど価格転嫁の割合が低くなる傾向があり、下請け企業ほど厳しい状況に置かれています。業種別では製造業や建設業に比べ、サービス業の転嫁率が低いことも課題です。
2026年1月からの法改正
こうした状況を改善するため、2026年1月1日から「下請法」が改正され「中小受託取引適正化法(取適法)」となりました。「予算がない」「他社は値上げしていない」といった理由で価格協議を拒否することが明確に禁止され、手形払いも原則禁止となります。
また、保護対象が従業員数基準でも判定されるようになり、対象が大幅に拡大しました。これにより、中小企業が賃上げの原資を確保しやすい環境整備が進むことが期待されています。
「賃上げ疲れ」の実態
2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%と過去最高を更新しましたが、その内実は楽観できません。「業績の改善が見られないが賃上げを実施予定」とする「防衛的賃上げ」企業が36.9%と最多を占めています。
東京商工リサーチの調査では、向こう5年間毎年の賃上げを実施できるか問うたところ、「毎年実施できるか不透明」が29.3%、「毎年実施するのは難しい」が5.3%でした。中小企業の約3分の1が、賃上げ継続に不安を抱えている実態が浮き彫りになっています。
中小企業の労働分配率は約8割に達しており、これ以上の賃上げ余力は大企業と比較して厳しい状況です。収益改善なき賃上げは長続きしないため、価格転嫁の進展が不可欠です。
実質賃金プラス転換への道筋
2026年の見通し
実質賃金がプラスに転じるかどうかは、2026年の最大の焦点です。元日銀理事の門間一夫氏は、2026年は実質賃金がプラスに転じる可能性を指摘しています。
2025年は賃金上昇率が約2.5%に対し物価上昇率が約3%で「賃金が負けていた」状況でした。2026年は賃金上昇率が2.5%程度を維持する一方、物価上昇率が2%程度に落ち着けば「2.5対2」となり、実質賃金は0.5%程度のプラスになる可能性があります。
日銀の利上げ判断
日本銀行は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げ、賃金と物価がともに上昇するメカニズムは維持されていると判断しました。植田和男総裁は今後も利上げを続ける方針を示しており、市場では次の利上げ時期を「2026年前半」と予想する声が多くなっています。
日銀の調査では、大・中堅企業の大半が2026年度も2025年度並みの賃上げを予定していますが、中小企業については「価格転嫁の遅れ等による収益不芳先を中心に厳しい」との声が比較的多く聞かれています。
注意点・展望
大企業と中小企業の格差拡大リスク
大企業と中小企業の賃上げ格差は、引き続き注視が必要です。2024年の賃上げ率は全規模で5.10%、中小で4.45%と差がありました。常用労働者規模別の所定内給与額を見ると、1,000人以上の企業と100人未満の企業との差は足元でむしろ拡大しています。
連合は格差是正のため中小企業向けに「6%以上」の目標を掲げていますが、価格転嫁が進まなければ達成は困難です。格差が拡大すれば、消費回復も一部にとどまり、経済全体の好循環が実現しにくくなります。
人材確保と賃上げの関係
2024年の転職者数は331万人と3年連続で増加し、人手不足を背景とした倒産も増えています。人材確保は企業の存続に直結する課題であり、賃上げなしには優秀な人材を確保できない環境が続いています。
こうした環境下では、たとえ業績が芳しくなくても賃上げせざるを得ない企業が多く、「防衛的賃上げ」が広がっています。持続可能な賃上げのためには、生産性向上と価格転嫁の両面からの取り組みが不可欠です。
まとめ
2026年春闘は、2年連続5%超の賃上げを実現した流れを継続できるかの正念場です。経団連と連合は物価を超える賃上げで一致しており、大企業を中心に高水準の賃上げが見込まれます。
しかし、中小企業では価格転嫁の遅れから「賃上げ疲れ」が広がりつつあり、大企業との格差拡大が懸念されています。実質賃金のプラス転換には、物価上昇の落ち着きと中小企業への賃上げ波及の両方が必要です。
2026年1月施行の「中小受託取引適正化法」により価格転嫁環境の改善が期待されますが、その効果が春闘に反映されるにはまだ時間がかかります。今後の労使交渉と中小企業の動向を注視していく必要があります。
参考資料:
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