ロピアOICが経営者候補枠を新設、5年で社長登用も
はじめに
食品スーパー「ロピア」を運営するOICグループが、2026年春卒の新卒採用から「経営者候補生特別枠」を新設しました。入社3年目から社内の「経営者育成塾」に応募でき、最短で入社5年目にグループ会社の代表や役員に就任できるという大胆な制度です。
この動きは、2031年度にグループ売上高2兆円を目指すOICグループの急成長戦略と密接に関係しています。現在約40社のグループ会社を100社体制に拡大する計画の中で、経営人材の確保が喫緊の課題となっているのです。
本記事では、OICグループの経営者候補枠の詳細と、その背景にある成長戦略、そして食品スーパー業界における人材育成の新潮流について解説します。
OICグループの経営者候補枠制度の詳細
制度の仕組みと応募要件
経営者候補生特別枠は、新卒入社者を対象とした経営幹部への早期登用制度です。入社後は店舗での実務経験を積みながら、3年目から「経営者育成塾」への応募資格を得られます。通常の選考プロセスが一部免除されるため、経営志向の強い人材にとっては魅力的なキャリアパスとなります。
経営者育成塾で学んだ後、最短で入社5年目にはグループ会社の代表や役員に就任することが可能です。20代でのグループ企業経営という道を明確に示すことで、経営に関心の強い新卒人材の獲得を狙っています。
現場主導の事業部制が生む経営人材
ロピアの人材育成の特徴は、「100%現場主導」の事業部制にあります。本部のMD(マーチャンダイザー)や開発部門は存在せず、精肉・鮮魚・青果・食品・惣菜の各売り場のチーフが自ら買付を行い、販売価格を決定し、商品開発まで手がけます。
同社は「チーフは最小単位の経営者」と位置づけており、各店舗は「個人商店の集まる商店街」のようなイメージで運営されています。この徹底した権限移譲により、入社数年で実質的な経営判断を経験できる環境が整っています。
PB商品開発にも経営者マインドを活用
ロピアのプライベートブランド(PB)商品には、開発者の名前が採用されています。自らが企画・開発した商品が全国の店頭に並び、売上という形で成果が可視化される仕組みです。これは単なる販売スタッフではなく、経営者マインドを持った人材を育成するための仕掛けの一つといえます。
急成長を支える人材戦略の背景
2031年に売上2兆円・100社体制の目標
OICグループは2031年度までにグループ売上高2兆円、グループ100社体制の達成を目指しています。2025年2月期の売上高は5,213億円、グループ会社数は41社(2025年11月末時点)であり、約6年間で売上を約4倍、グループ会社数を約2.5倍に拡大する野心的な計画です。
中間目標として、2027年にはグループ売上高1兆円を掲げています。この急成長を実現するためには、新規出店の加速だけでなく、それを支える経営人材の大量育成が不可欠となります。
店舗数の急拡大が進行中
ロピアの店舗数は急速に拡大しています。2024年2月時点で約90店舗だった国内店舗は、2025年には125店舗(国内118店舗、海外7店舗)に増加。さらに2025年8月時点では135店舗(全国22都道府県および台湾)まで拡大しています。
2031年までに300店舗体制を目指す中で、店長やエリアマネージャーだけでなく、グループ会社の経営を担える人材が大量に必要となります。外部採用だけでは限界があるため、新卒から計画的に経営人材を育成する仕組みが求められていたのです。
年間1,000人以上の採用体制
OICグループは人材確保に向けた投資も積極的に行っています。飲食・食品業界に特化した人材サービス企業のクックビズと資本業務提携を結び、年間1,000人以上の採用体制構築を目指しています。
新卒採用では毎年101〜200名規模の採用を行っており、経営者候補枠の新設はこの大量採用の中で優秀な人材を獲得するための差別化戦略でもあります。
食品スーパー業界の人材育成トレンド
業界全体が抱える人材課題
食品スーパー業界は厳しい経営環境に置かれています。2023年11月の帝国データバンクの調査によると、食品スーパーの約3割が赤字という状況です。人手不足と人件費の上昇、原材料費の高騰が収益を圧迫しており、優秀な人材の確保は業界共通の課題となっています。
従来の食品スーパーでは、店舗配属後に販売経験を積み、店長、エリアマネージャーと段階的にキャリアアップしていくのが一般的でした。しかし、このペースでは急成長を目指す企業の人材ニーズを満たすことができません。
ロピアの差別化ポイント
ロピアの経営者候補枠が注目される理由は、明確なキャリアパスの提示にあります。「入社5年目でグループ会社の代表」という具体的な目標は、経営志向の強い学生にとって大きな魅力となります。
また、入社初期から実質的な経営判断を経験できる現場主導の事業部制は、座学中心の研修プログラムとは一線を画しています。「経営を学ぶ」のではなく「経営を実践する」環境が、人材育成の加速を可能にしています。
注意点と今後の展望
経営者候補枠の選考と競争
経営者候補生特別枠は、すべての新卒入社者に開かれた制度ではありますが、経営者育成塾への参加には社内選考があります。入社後3年間の実績や適性が評価されるため、単に応募すれば経営者になれるわけではありません。
また、グループ会社の代表や役員に就任しても、その後の成果が問われることは言うまでもありません。権限とともに責任も大きくなるため、覚悟を持った人材でなければ務まらないポジションです。
他社への波及効果
ロピアの取り組みは、食品スーパー業界全体に影響を与える可能性があります。人材獲得競争が激化する中で、キャリアパスの明確化や権限移譲の加速は、他社も検討せざるを得ない課題となるでしょう。
特に、成長志向の強い中堅・中小スーパーにとっては、大手との差別化要因として人材育成制度の充実が重要になってきます。ロピアの成功事例は、業界全体の人材戦略に一石を投じることになりそうです。
まとめ
OICグループの経営者候補生特別枠は、2031年売上2兆円・100社体制という急成長目標を支える人材戦略の一環です。入社5年目でグループ会社の代表になれるという明確なキャリアパスは、経営志向の強い新卒人材にとって大きな魅力となります。
この制度の成否は、今後のOICグループの成長だけでなく、食品スーパー業界全体の人材育成のあり方にも影響を与える可能性があります。経営人材の育成を加速させる取り組みとして、引き続き注目していく価値があるでしょう。
参考資料:
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