実質賃金11カ月連続減少——賃上げ5%でも物価に追いつかない現実
はじめに
2025年11月の実質賃金は、11カ月連続のマイナスとなりました。厚生労働省が2026年1月8日に発表した毎月勤労統計調査によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比2.8%減少しています。
2024年、2025年と「歴史的な賃上げ」が実現したとされる一方で、「歴史的な物価高」も進行しました。賃上げが物価上昇に追いつかず、家計は改善を実感できない状況が続いています。
政府は電気・ガス代への補助復活などで2026年度にプラス転化すると予測していますが、円安による食料品値上げなどで物価が上振れすれば、マイナス圏に戻るリスクも残ります。
2025年11月の毎月勤労統計——何が起きたか
実質賃金2.8%減の内訳
2025年11月の実質賃金は前年同月比2.8%減でした。これは市場予想を下回る厳しい数字です。
名目賃金(現金給与総額)は前年同月比0.5%増の31万202円で、47カ月連続のプラスとなりましたが、10月の2.5%増から大きく鈍化しました。
内訳を見ると、基本給を含む所定内給与は2.0%増の27万41円で49カ月連続の上昇。残業代などの所定外給与も1.2%増となりました。しかし、ボーナスなどの「特別に支払われた給与」が17.0%減の1万9293円と大幅に減少し、全体の伸びを押し下げました。
物価上昇3.3%が実質賃金を圧迫
実質賃金がマイナスとなった直接の原因は、消費者物価指数が3.3%上昇したことです。名目賃金が0.5%増えても、物価が3.3%上がれば、実質的な購買力は低下します。
2025年は年間を通じて3%超の物価上昇が続きました。円安に伴う輸入品価格の上昇、エネルギー・食料品の値上げが家計を直撃しています。
新方式による算出との違い
厚労省は2025年3月分から、実質賃金の算出に消費者物価の総合指数を使う新方式を導入しました。新方式による11月の実質賃金は2.4%減と、従来方式(2.8%減)より0.4ポイント高くなっています。
これは計算方法の違いによるもので、生活実感としての賃金の目減りは変わりません。
なぜ「歴史的賃上げ」でも追いつかないのか
2024年・2025年春闘の実績
2024年の春闘では平均賃上げ率が5.3%に達し、1991年以来33年ぶりの高水準となりました。2025年も5.5%前後と高い伸びが続き、「賃金上昇の好循環」への期待が高まりました。
しかし、この「歴史的な賃上げ」と並行して「歴史的な物価高」が進行しました。名目賃金は44カ月連続でプラスとなっていますが、物価上昇を差し引いた実質賃金は依然としてマイナスが続いています。
ベースアップの定着が課題
賃上げには定期昇給(年齢・勤続年数に応じた昇給)とベースアップ(賃金表そのものの引き上げ)があります。物価上昇に対抗するにはベースアップが重要ですが、多くの中小企業では定期昇給にとどまるケースも少なくありません。
大企業と中小企業、正規と非正規の賃金格差も依然として存在し、賃上げの恩恵を受けられない層が一定数存在します。
物価上昇の持続
26年春闘で交渉の材料となる2025暦年の物価は、消費者物価指数(CPI)の総合・コアともに前年比3%超の上昇が予想されています。2024年から加速しており、賃上げが追いつくには時間がかかりそうです。
2026年春闘の焦点
連合は3年連続「5%以上」を要求
連合は2025年11月の中央委員会で、2026年春闘方針を正式決定しました。賃上げ目標は定期昇給とベースアップを合わせて「5%以上」、ベア分で「3%以上」としています。これは2024年、2025年と同じ水準で、3年連続の高い目標維持となります。
中小労組向けには格差是正分を上乗せした「6%以上・1万8000円以上」を目安としています。
経団連も賃上げ姿勢を明確化
経団連など経済3団体は2026年1月6日の新年祝賀会で、2026年春闘に向けて5%超の賃上げを表明する経営者が相次ぎました。経団連の筒井義信会長は「26年はデフレからの真の脱却に向かう年だ。ベースアップを賃金交渉のスタンダードに位置づける」と強調しています。
2026年春闘の見通し
第一生命経済研究所の予測によると、2026年の春闘賃上げ率は5.20%と予想されています。2025年春闘の5.52%は下回るものの、3年連続で5%台の高い賃上げが実現する見通しです。
問題は、この賃上げが実質賃金のプラス転化につながるかどうかです。
2026年度に実質賃金はプラスになるか
政府の見通し
政府は電気・ガス代への補助復活といった政策効果で、2026年度には実質賃金がプラスに転じると予測しています。物価上昇を抑制しながら賃上げを促進するという両面作戦です。
楽観できない要因
しかし、円安が続けば輸入品価格は高止まりし、食料品を中心とした値上げは続く可能性があります。2026年春闘で高い賃上げが実現しても、物価がそれ以上に上昇すれば実質賃金はマイナスのままです。
第一生命経済研究所は、実質賃金が安定的にプラスとなるタイミングは「早くても2025年12月〜26年1月、遅ければ26年度入り以降」と予測しています。
中小企業・非正規への波及が鍵
大企業の賃上げが中小企業に波及するか、非正規雇用者の処遇改善が進むかも重要なポイントです。賃上げの恩恵が広く行き渡らなければ、実質賃金の回復は限定的なものにとどまります。
注意点・展望
生活実感との乖離
統計上の実質賃金がプラスに転じても、生活実感としての改善を感じられるまでには時間がかかる可能性があります。特に固定費(住居費、教育費など)の上昇は家計を圧迫し続けます。
デフレ脱却の正念場
2026年は「デフレからの真の脱却」に向けた正念場となります。賃金と物価がともに上昇する「好循環」が定着するか、物価上昇だけが先行する「悪循環」に陥るかの分岐点です。
為替動向への注意
円安が進めば物価上昇圧力が高まり、実質賃金のプラス転化は遠のきます。金融政策と為替動向も引き続き注視が必要です。
まとめ
2025年11月の実質賃金は前年比2.8%減で、11カ月連続のマイナスとなりました。3%超の物価上昇が続く中、「歴史的な賃上げ」でも追いつかない厳しい状況が続いています。
2026年春闘では連合・経団連ともに5%超の賃上げを目指しており、3年連続の高水準が見込まれます。しかし、実質賃金がプラスに転じるかどうかは物価動向次第であり、楽観はできません。
政府の政策効果と賃上げの広がり、そして円安・物価の動向が、2026年度の実質賃金を左右することになります。
参考資料:
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